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認知症 笑顔の見守り 58歳妻に症状・・・悩み抱え込まず

(2017年3月7日) 【中日新聞】【朝刊】【三重】 この記事を印刷する

津・居酒屋 長谷川彰さん、洋子さん結婚40年

画像若年性認知症を患う妻の洋子さん(右)を支えながら居酒屋を営む夫の長谷川彰さん=三重県津市新町の居酒屋「栄楽」で

 若年性認知症の妻を、夫が見守りながら営む居酒屋が三重県津市内にある。津市新町の「栄楽」店主の長谷川彰さん(64)は5年前、妻洋子さん(63)の症状を知り、会話が成り立たず「殺してやろう」とも思った。ただ、周囲に症状を明かし、ともに店に立って乗り切ってきた。「店があるから夫婦は笑顔でいられる」。2人は6日、結婚40周年を迎えた。(大島宏一郎)

 「この人、3歳やったか?」。40代の男性会社員3人組が来店すると、店内のざわめきに負けないくらい大きな声が響いた。席に着くと、洋子さんは「生ビールは届いているな」「ウーロン茶はおいしいでな」と繰り返し、指を折りながら注文を取っていた。

 2012年9月、洋子さんは58歳の若さで認知症と診断された。彰さんはインターネットで調べると「有効な薬はない」といった悲観的な情報が並び、思わず涙が込み上げた。「夫婦生活はこの先どうなるのだろう」

 症状は少しずつ進んだ。薬局で同じ洗剤をたくさん買ったり、自宅のプランターを造花に植え替えたり…。怒りで手を出すことも。加減が分からず厚化粧して出掛ける妻に恥ずかしさを覚え、誰にも話さず抱え込んだ。夫婦の会話はかみ合わず、互いに非難し合う日々が続いた。

 「夫婦で発散できる場を探したかった」。4年前、店のアルバイトが辞めたのをきっかけに、妻に注文の取り次ぎや食器の片付けを手伝ってもらうようにした。常連客や従業員に症状を打ち明けると「気分が楽になった」

 「家族だけで悩みを抱え込まず、周囲に助けを求めることが大切だと思う。店が気を楽にして妻と向き合うきっかけをつくってくれている」。彰さんはこう実感している。

 洋子さんは温泉旅行が大好き。たとえ結婚記念日のプレゼントだと理解できなくても、彰さんは休みの日にどこかへ連れて行ってあげようと考えている。

社会全体の理解 必要 平均発症 51歳

 働き盛りの世代が発症する若年性認知症は、外見では症状が分かりづらいため、患者や家族は周囲から理解が得られず、苦しむケースは少なくない。

 2009年の厚生労働省のまとめによると、患者は全国に3万8千人おり、平均発症年齢は51歳。14年度の同省研究班の生活実態調査では、就労経験のある221人のうち6割超の146人が発症後に退職したと回答している。

 全国若年認知症家族会・支援者連絡協議会の遠藤百合子さん(60)は「企業側の理解が進んでいない」と現状の課題を指摘する。職場で同僚の名前を忘れたり、仕事でミスが相次いだりするため、退職を促される事例があり「周りから理解されずに家に閉じこもり、さらに症状が悪化することが多い」と明かす。

 遠藤さんは、若年性認知症への社会全体の理解が必要だと訴える。「他人とのコミュニケーションで脳が活性化し、症状を遅らせることもできるので、家族や地域で支援をしてほしい」と話した。

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