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高齢ドライバーの認知症チェック強化 医師 負担増を危惧

(2017年3月13日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する

診断対象5万人に拡大

認知機能検査の流れ

 運転免許の更新時に「認知症の恐れがある」と判定された75歳以上のドライバーに、医師の診断を義務付ける改正道交法が12日に施行された。受診者が大幅に増えると予想されることから、認知症専門医からは「今でも予約待ちの状態なのに、対応できるのか」と懸念する声が上がる。また、診断結果は免許取り消しにつながるだけに医師の負担感も重く、困惑する声も聞かれる。(生活部・出口有紀)

 「通常の診療にも影響が出かねない」。国立長寿医療研究センター(愛知県大府市)の遠藤英俊内科総合診療部長は不安を隠さない。現状でも予約待ちが半年に及ぶこともある。

 診断には問診や画像検査で3時間はかかる。さらに、もの忘れが進行しているかも見極める必要があり「初診の患者だと、診断できるまで2、3カ月かかることもある」という。

 改正法の施行により、違反などがなくても検査で「恐れ」と判定されると診断書提出が義務付けられ、認知症と診断されれば免許取り消しや停止となる。

 これにより、受診者は5万人に急増すると見込まれており、警察庁は専門医でない地域の開業医でも診断できるようガイドラインを作成し、診断への協力を要請した。

 しかし、認知症の症状は多様で診断が難しく、開業医が専門医を紹介するケースが相当数出てくるとみられている。

 八千代病院(同県安城市)の川畑信也認知症疾患医療センター長は「“誤診だ”と患者から訴えられたり、認知症ではないと診断した人が交通事故を起こした場合、医師の責任はどうなるのかという議論も起きかねない」と指摘する。

 榊原白鳳病院(津市)の笠間睦(あつし)診療情報部長は2月、通院患者向けに「診断書作成の依頼は受けない」との文書を掲示した。「免許取り消しを恐れ、治療すべき人が来院を控えるかもしれない」と危惧する。

免許失った高齢者の支援・仲介

画像記憶力のテストを受ける高齢者=岐阜市の聖徳自動車学園で

 滋賀県警は、検査で認知症と診断されて免許を失い生活の足を失う高齢者を支えようと、希望した高齢者の情報を自治体の地域包括支援センターに連絡する取り組みを始める。適切な介護サービスなどにつなげるのが狙い。県警によると全国で初の試みという。岐阜県警でも同様の取り組みを進める。

 滋賀県警によると、免許を取り消されたり自主返納したりした高齢者に対し、生活支援の要望を確認。名前と連絡先、住所、生年月日を聞き、各自治体の地域包括支援センターに対応を依頼する。県警は対象者の多くが要介護などの認定を受けられるとみている。県警の担当者は「法改正は、認知症の高齢者が交通事故の加害者とならないようにする趣旨だが、適切な支援につなぐことで、事故の被害者にもならないようにしたい」と話す。

 岐阜県内では、82ある各地の地域包括支援センターと情報を共有。センターの保健師や社会福祉士らが、介護保険の相談や医療機関の紹介、買い物などの生活の悩みに答える。

 また、免許継続の可否という責任の重い判断が伴うことから、県警は医療機関でのトラブル相談に対応する。これまで自動車学校に委託していた検査は、制度改正以降、非常勤専門職9人を県内6カ所の運転者講習センターに配置し公安委員会が責任を持って行うように全国で初めて改めた。

 交通部の大坪道明参事官は「少しでも生活の不安を解消する体制と自主返納を促す環境づくりを進めていきたい」と話している。

 愛知県警では、運転免許課に非常勤の嘱託職員5人を増員する。うち1人は、看護師、保健師の有資格者で、認知症に関する相談に応じる。また、一定の違反行為をした場合の「臨時認知機能検査」などに備え、県運転免許試験場(名古屋市天白区)と東三河運転免許センター(同県豊川市)のほかにも、対応窓口を増設する方針。

75歳以上 認知症検査強化 改正道交法施行「恐れあり」受診義務

 高齢ドライバーの重大事故を防ぐため、75歳以上の運転免許保有者に対し、記憶力や判断力の認知機能検査を強化する改正道交法が12日、施行された。3年に1度の免許更新時の検査で「認知症の恐れ」と判定された場合には、医師による診察を受けることを義務化。逆走や信号無視など18項目の違反をしたときも、臨時検査を受けなければならない。

 警察庁によると、2015年は4027人が医師の診察を課せられ、うち1472人が認知症として免許取り消しや停止の処分となった。

 新制度では年間の受診者が約5万人、処分者も約1万5千人に膨らむと予想。事故予防に効果が期待される一方、医師との連携や車の運転ができなくなった高齢者の交通手段の確保なども課題となる。

 検査は楽器や動物などのイラストを見て、一定時間の経過後にどの程度記憶できているか確認したり、指定された時刻の時計の絵を描いたりする。

 その結果を基に「認知症の恐れあり」を第一分類とし、「認知機能が低下している恐れあり」を第二分類、「認知機能が低下している恐れなし」を第三分類とする。

 法改正前も3年に1度の検査は実施していたが、第一分類でも一定の違反をしなければ医師の診察は必要なかった。このため、次の検査までの間に認知症が進み、重大事故を起こす危険があるとの指摘があった。

 新制度では、検査で第一分類と判定された人は速やかな医師の診察が義務付けられ、認知症と診断されれば免許の取り消しか停止となる。第二分類でもドライブレコーダーを使った個別指導を含む3時間の講習が課せられる。第三分類は2時間の講習を受ける。

 警察庁の統計では、75歳以上の運転免許保有者数は高齢化社会の進行で増加傾向にあり、昨年末段階で約513万人。昨年の75歳以上の死亡事故は459件で全体の1割強を占め、うち31人が直近の認知機能検査から事故までの間に臨時の認知機能検査の対象となる違反を行っていた。

 高齢者の事故 全国的に交通死亡事故が減少傾向にある中、75歳以上のドライバーによる死亡事故は、毎年450件前後で減っていない。2015年の全体に占める割合は05年比5.4ポイント増の12.8%だった。警察庁の調べでは、15年に75歳以上が起こした死亡事故458件で、ドライバーに認知機能検査をしたところ、7.2%が「認知症の恐れ」、42.2%が「認知機能低下の恐れ」と判定され、半数に認知機能の問題が疑われた。

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