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〈味な提言〉(6) 酵母 人類の古くて小さな友達 身近に8000年 研究材料にも

(2017年3月12日) 【中日新聞】【朝刊】【愛知】 この記事を印刷する

名城大農学部教授(応用微生物学研究室) 加藤雅士さん

加藤雅士さん

 昨年のノーベル医学生理学賞は大隅良典・東京工業大栄誉教授でしたが、先生がこの地域とも深い関係のあることは最近の本紙連載「岡崎ノーベル酔談 大隅研のこころ」で、ご存じの方も多いかと思います。授賞理由はオートファジー(細胞の自食作用。簡単にいうと細胞の中でタンパク質がリサイクルされる仕組み)の研究でした。

 それが「味な提言」とどんな関係があるの?と思われる方もいるでしょう。でも、大ありなのです。大隅先生の研究は酵母を使って行われました。あの、お酒とかワインとかパンを造る酵母、サッカロミセス・セレビシエです。

 1回目の本欄で、酵母はわれわれヒトと似た細胞構造を持ち、進化的に「高等な」微生物だと説明しました。ワインやパンの製造にも使われ、身近な存在である一方、近代生物学の研究対象にもなりました。

画像酵母サッカロミセス・セレビシエ。卵形をしている=名城大応用微生物学研究室提供

 「生命の自然発生説」を否定したことで有名なパスツールは、19世紀を代表する科学者の一人ですが、酵母を使ってアルコール発酵の研究を行い、アルコール発酵がある種の化学反応であることを証明しました。蛇足ですが、パスツールはまさに天才科学者で、低温殺菌法(英語ではパスチャライゼーションといいます)やワクチンの開発など、多方面で数々の業績を上げました。

 話を戻しますが、20世紀に入っても、遺伝学や分子生物学、細胞生物学にも酵母は重要な研究対象として、細胞の基本的な仕組みを理解する材料としてよく使われました。安全で、増殖も速く、培養のコストが低いという利点があるので、特にオートファジーのような、ヒトにも酵母にも共通するような細胞の仕組みの研究にはピッタリの生物だったわけです。

 このように学問に役立つ酵母とヒトとの関係には長い歴史があります。紀元前6000年ごろ(諸説あり)の黒海とカスピ海に挟まれたあたりでは、既にワインが造られていたそうですから、知らないうちに、酵母とヒトの付き合いは8000年以上にもなっています。ワインの製法は古代エジプト、ギリシャへと伝えられ、文明とともに酵母との付き合いも続いてきたといえます。

 一方、パンの起源は紀元前4000年ごろのメソポタミア文明までさかのぼりますが、最初のころは酵母が活躍しない無発酵のものだったようです。酵母の活躍する発酵タイプのパンが生まれたのは古代エジプトの時代です。ビール造りについても古代エジプトで盛んに行われていたようで、ピラミッドの壁画には当時のビール造りの記録が残っています。

 ただし、当時のビールは現在のものと大きく異なっていました。発芽した麦を粉にして、水を加えてパンを焼き、それをお湯につけておくと、自然に酵母が生育し、アルコール発酵をしました。これが当時のビールだったようです。日本でも麹(こうじ)菌が酒造りに使われるずっと前、神話の時代から酵母による酒造りは行われていました。古事記や日本書紀のなかにも記されています。

 このように、文明のあるところには必ず酵母の存在がありました。次回は野生酵母を利用した日本酒のお話をしたいと思います。

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