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<浜通りの片隅に>東日本大震災6年(5) 故国へ

(2017年3月15日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する
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善意の航空券 心癒やす

 福島県相馬市の市街地にある地域活動支援センター「なごみCLUB(クラブ)」。精神疾患の患者らが集まるこの場を、フィリピン・サマール島出身で市内に暮らす林イメルダさん(50)が訪れるようになったのは一昨年のことだ。しかし、気分の落ち込みが激しく、統合失調症の治療意欲も失っていた。「お墓参りに、故郷へ帰りたい」と、来るたびに涙を流した。

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 故国の大学生だった21歳のとき「日本人と結婚すれば、家族に仕送りもできる」と知人に勧められた。地方の独身男性とフィリピン人女性を結ぶ国際結婚ビジネスが盛んだった時代だ。福島県の農家に嫁ぎ、4人の子をもうけたが、夫との関係に悩み、精神のバランスを崩して離婚。懸命に働いて子育てをしてきたが、糖尿病、慢性リウマチなども発症し、生活保護を受けながら市営住宅で暮らしてきた。震災後の2014年に故郷の母と弟が相次いで病死し、大きなダメージを受けていた。

 「何とかしてあげたい」と、クラブで所長を務める大谷廉(れん)さん(42)は旅費の寄付集めを思い立った。しかし、市の生活保護の窓口に相談すると担当者は「寄付のお金が収入と認定されると、生活保護がカットされるかも。それに、旅先で病状が悪化したらどうするんですか」。

画像旅の思い出を語り合うイメルダさん(左)と大谷さん=福島県相馬市のなごみCLUBで

 しかし、大谷さんはくじけなかった。外国人の多い東京都新宿区の生活保護窓口に問い合わせ、イメルダさんに航空券を贈る形なら問題はないことを確かめた。旅行中の病状チェックについては、相馬市で被災者を支援する兵庫県の精神科医・丸田芳裕さん(49)が同行を快諾してくれた。

 インターネットを通じて寄付を募るクラウドファンディングや、口コミを通じて53万円が集まった。昨年夏、イメルダさんと長男、大谷さん、丸田さんの4人で、フィリピンへの8日間の旅が実現した。イメルダさんはお墓に手を合わせて涙を流し、地元の妹ら親族も滞在費を全額負担して歓迎してくれた。大谷さんらの寄付集めに「フィリピンでは想像できないこと」と感激していたという。

 帰国したイメルダさんは見違えるほど明るくなり、病状も落ち着いている。「そこまでやる必要があるのか、という反対もありました。でも彼女の人生のために絶対に必要な支援だと思いました」と大谷さん。

 自身も震災後の支援活動の中で、うつ病を発症し休職した時期がある。その際、福島の子どもたちを夏休みに八丈島(東京都八丈町)に連れていくキャンプにボランティアとして参加し、島の自然に触れる中で元気になった。イメルダさんにも故郷の島が良薬になると確信していた。

 「なごみ」は、精神科医らでつくるNPO法人「相双に新しい精神科医療保健福祉システムをつくる会」が震災直後に設立。クリニックやこころのケアセンターなどがあり、丸田さんも毎月2回、診療に訪れている。

 「バックパッカーとして年に3、4回は海外を旅しているので、そのうち1回を里帰り支援に充てました。イメルダさんの精神症状を改善することができて、大谷さんにとっても治療的な効果が大きかったと思います」と笑みを浮かべた。=おわり(この連載は、編集委員・安藤明夫が担当しました)

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