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認知症の人は不安だらけ

(2017年3月22日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する

VRで患者の気持ち体験 「変わるべきは、周囲の対応」

画像ディスプレーをつけ認知症の仮想現実を体験する参加者=さいたま市で

 2025年には高齢者の5人に1人が認知症を患うとされている。風邪なら自身の経験を基に患者の気持ちを思いやることができるが、認知症の人がどんな場面でどんな思いをしているのかは想像しにくい。そこで、東京都内の企業が開いているバーチャルリアリティー(VR=仮想現実)の技術を活用した体験会に参加し、認知症の人の気持ちを考えてみた。 (白鳥龍也)

 「さあ着きましたよ。降りましょう」。ヘッドホンから女性の声が聞こえる。

 ゴーグルのような形をしたディスプレーに映し出されるのは、5階建てほどのビルの屋上から下をのぞいた景色。行き交う車が小さく見える。360度見渡せ、まさに自分が屋上の縁に立っているようだ。「落ちる…」。思わず身をすくませると、今度は男性の声で「右足からゆっくり」と促される。優しい口調が余計に怖い。

 やがて画面は変わり、ある家の玄関先。「お帰りなさい」と家人が現れる。そこで、先ほどの映像は施設から送迎車で帰宅した自分が、下車を促されている場面だと気付く。まるで、高いところから突き落とされるような感覚になり、ここから降りるなんてとんでもないと思ってしまう。

画像下河原忠道社長

 「拒絶や徘徊(はいかい)など認知症の症状には理由がある。異常と決め付け、閉じ込めなどで傷つけてはいけません」。体験会を主催した建設関連業で高齢者住宅を運営する「シルバーウッド」(東京都港区)の下河原忠道社長(45)が約50人の参加者に訴えた。

 体験は1回数分間だが、この場面のほか、電車の中で目覚めるとどこにいるのか分からない状況も再現。また家に見知らぬ男が現れたり、ケーキの上を虫がはい回ったりする「幻視」も体験できる。

 参加者の多くがディスプレーをつけたまま左右を見回し、不安だらけの世界に迷い込んだ。迷子になる映像では、心細くどうしたらよいのか分からなくなったが、「どうしましたか」と、通り掛かった女性に声を掛けられ、救われた気持ちになった。

 体験会は、さいたま市で行われた介護福祉業界の就職・転職フェアの一環。埼玉県新座市の障害者施設職員小沢久美さん(53)は「84歳になる認知症の母の気持ちが少し分かった。電車の乗り換えができず責めたことも反省させられた」と話した。

 シルバーウッドの下河原社長は、認知症への対応を考えるうち「問題は認知症そのものではなく、認知症の人が生きづらい社会。変わるべきはわれわれ」と感じ、VRの活用を思い付いた。

 映像は、認知症の本人や家族らへの聞き取りを基に同社が作った。幻視が特徴のレビー小体型認知症があり、病気について知ってもらう活動をしている千葉県の樋口直美さん(54)が監修。樋口さんは「VRを体験して、私たちが恐怖の世界に生きていると思ったかもしれないが、異常でも気の毒でもない。周囲の対応が良ければ、普通に暮らせることを理解してほしい」と話す。

 体験会は、1年ほど前から学校や企業などで開き、約2500人が参加したという。今後は有料化も視野に、よりリアルな映像開発に取り組むという。体験の問い合わせ先は「VR認知症プロジェクト」で検索。

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