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<元名大生の闇>刑務所で治療 限界 (下) 更生

(2017年3月27日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する
画像鉄格子のかかった窓の近くを、看護師や刑務官が行き交う=愛知県岡崎市の岡崎医療刑務所で

 「責任を自覚させ、刑務所での受刑を通じた償いを実効性のあるものとするべきだ。そのため、障害の状況に応じた適切な療育、治療を最大限講じてほしい」

 名古屋大の元女子学生(21)に対する24日の名古屋地裁判決は、発達障害と双極性障害(そううつ病)の犯行への影響を認め、矯正治療について異例の言及をした。さらに「一定の治療は、医療刑務所を含む枠組みで対処可能である」とも指摘した。

 岡崎医療刑務所(愛知県岡崎市)は、中部地方で唯一の医療刑務所。重い精神障害がある男性受刑者ら135人が生活している。

 「幸せは、雲の上にぃ」。鍵付きの扉の奥から、野太い歌声が漏れる。小さな部屋では緑色の作業服を着た中年男性がマイク片手に立ち、往年の名曲「上を向いて歩こう」を熱唱していた。その傍ら、別の男性がただ宙を見つめ、もう一人は赤い色鉛筆でバスをひたすら描いている。

 「彼らは自分の状況をあまり理解できていない。互いのコミュニケーションも図れない」と職員は言う。カラオケや塗り絵は治療の一環で、ほかに薬物療法やカウンセリング、窯業などの芸術療法もある。精神科医2人が常勤し、ケアは手厚い。

 ただ、全国に4カ所ある医療刑務所のうち、精神障害者を収容するのは岡崎と北九州(福岡)の2カ所。女性受刑者に対応するのは北九州のみだ。

 ある矯正関係者は「医療刑務所に収容されるのは、会話が全く通じないなど集団生活ができない人」といい「狭き門」と明かす。その上で、元学生の収容先は「一般の女子刑務所だろう」と推測する。

 女子刑務所の笠松刑務所(岐阜県笠松町)では、445人が縫製や部品製造などに従事している。

 所内の工場には50人ほどがひしめき合って座る。言葉を発する者はなく、机の上のつまようじを一つずつ丁寧に袋に詰めていく。食事や入浴時間など以外、朝から夕方まで作業する。

 医療刑務所ではないにもかかわらず、精神障害のある受刑者は167人と全体の4割弱を占める。だが、対応は非常勤の精神科医による診察と投薬のみ。受刑者同士の意見交換や作文発表、DVD鑑賞などを通じて、被害者の視点を取り入れ、罪の大きさを自覚させるプログラムを受けられるのは、どの受刑者も半年間だ。

 「受刑者の人数が多く、一人一人に十分な治療は行えない」。別の矯正関係者は、女子刑務所での対応には限界があると指摘する。「そもそも一般の刑務所は作業して服役するところ。病院ではないから治療を主にはできない。そこまでやるには人手が足りない」

 受刑者らの処遇に詳しい龍谷大法科大学院の浜井浩一教授は、更生に向け一人ずつに教官や医師、看護師が付いて矯正教育や治療を行う医療少年院なら、「障害をコントロールする訓練ができたのに」と指摘。「元学生を刑務所に収容しても、殺人願望は変わらない可能性が高い」と懸念する。

 イタリアや北欧では受刑者の社会復帰を重視し、刑務所を更生目的と捉える動きが進んでいる。だが、「日本の刑務所はあくまでも懲罰が主な目的。本人の障害の特性を理解し、家族や医師らみんなで考えることが大切だが、想定はしていない」といい、「刑罰の在り方を見直すべき段階に来ている」と強調した。(この連載は杉藤貴浩、天田優里が担当しました)

 刑務所 実刑判決が確定した受刑者を収容する。全国に刑務所62カ所、刑務支所8カ所がある。うち医療刑務所は岡崎、北九州、八王子(東京)、大阪の4カ所で、八王子、大阪は終末期医療に対応している。女子刑務所は笠松、和歌山、栃木など10カ所。ほかに少年刑務所が7カ所あるが、成人を含めた男性が対象。

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