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世界初 他人のiPS移植

(2017年3月29日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する

理研 目の難病 費用・時間削減

他人のiPS細胞利用研究

 理化学研究所などのチームは28日、目の難病の患者に、他人の人工多能性幹細胞(iPS細胞)から作った網膜の細胞を移植する手術を実施したと発表した。他人のiPS細胞を使った移植は世界初。患者本人のものを使うより準備期間が短く、費用も安くなる利点がある。iPS細胞を使った日本発の再生医療の普及に向けた大きな一歩となる。

 理研の高橋政代プロジェクトリーダーらが、神戸市立医療センター中央市民病院で臨床研究として実施した。高橋氏は「標準的な治療にするための重要なステップになる」と強調した。

 チームは、網膜に障害が起き失明することもある「滲出(しんしゅつ)型加齢黄斑変性」の兵庫県在住の60代男性に対し、iPS細胞から作った約25万個の網膜細胞を含む溶液を注射針で右目に注入。細胞が網膜に定着するのを待つ手法で移植した。手術は約1時間で終わり、手術自体に特に問題はなかったという。

 まずは安全性を確かめるのが狙いで、移植した細胞が腫瘍にならないかなどを検証、視力を維持できるかも調べる。他人の細胞移植では拒絶反応が心配されるが、チームは京都大で備蓄している移植しても拒絶反応が少ない特殊な免疫の型のiPS細胞を使用、有効性を確かめる。高橋氏は移植の成否などの結果の公表は、症例を見極めるため2、3年後になるとの見通しを示した。

 高橋氏らは2014年、患者本人のiPS細胞から作った網膜細胞の移植を実施した。患者は視力の低下が止まり約2年たってもがんなどの異常はないが、移植までに11カ月、約1億円の費用がかかり、普及のためには期間短縮とコスト削減が求められていた。

高橋リーダー 「登山なら5合目」

iPS細胞を巡る主な経過

 「これからの道は急峻(きゅうしゅん)だと思う」。他人のiPS細胞を使った移植手術を世界で初めて実施したチームが28日夜、神戸市立医療センター中央市民病院(同市中央区)で記者会見、理化学研究所の高橋政代プロジェクトリーダー(55)らは、ほっとした表情を見せつつも今後の治療に向けて気を引き締めた。

 高橋氏は「登山に例えるなら5合目まで来た」と時折、笑顔を見せながらも「とにかくゴールは標準的な治療にすること」と言い切った。

 執刀した中央市民病院の栗本康夫眼科部長(56)は、術中の様子を写真で紹介。「チームには安心感を持っている」と強調する高橋氏に、栗本氏も「絶対に成功させるという強い意志を持って臨んだ。気を抜かずにやっていく」と応じた。

再生医療の大本に

 国立成育医療研究センターの阿久津英憲・生殖医療研究部長の話 一定の基準の下で備蓄されたiPS細胞を使うことで、細胞を一から作る必要がなくなる。準備期間や費用の削減が見込め、意義も大きい。拒絶反応がないかきちんと経過を追い、効果と安全性を見極めることが、ほかの病気への応用を目指す後続の研究者にとっても非常に重要な情報となる。備蓄されたiPS細胞の利用は、再生医療の大本になる。今後さまざまな病気の患者への使用が想定され、備蓄細胞のさらなる厳格な管理が求められる。

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