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〈生きる支える 心あわせて〉 外国人介護職員(下)

(2017年3月30日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する

言葉の弱点、補う情熱

画像利用者の女性たちと談笑しながら、血圧や体温をはかるヘーママーリ・グルシンハさん(中)=愛知県半田市で

 「元気? 朝食は食べられたかな?」。愛知県半田市の小規模多機能型居宅介護施設「多機能ホーム岩滑(やなべ)北浜」で、スリランカ人の介護職員ヘーママーリ・グルシンハさん(57)が、利用者一人一人に話し掛ける。

 午前7時から勤務が始まる早番では、宿泊した利用者や併設するグループホームの入居者がとった朝食を片付けたり、ごみを出したり、洗濯物を干したりと、やることは山積みだ。ほかの職員が見落としたことも率先してやる。「全体の仕事の流れが悪くならないようにしたい。介護の仕事は、決まったことだけやっていたらだめ。私も忘れちゃうし、お互いさま」と笑う。

 チームワークの大切さは、自分で痛感している。日本語の読み書きが不得手だからだ。介護現場では、利用者ごとの記録や報告書などを読んだり、記入したりと書類仕事が多い。血圧や体温などの数字は問題ないが、漢字は苦手。

 この日も、通いの利用者の上着を掛けるため、漢字の名前が書かれたハンガーを捜すのに苦戦。すかさず別の職員に聞く。「漢字、難しいなあ。頭に入らないね。職員が忙しい時は、入所者にも聞いちゃう」と照れ笑いする。入浴介助でも、排せつの有無などはメモし、手が空いている職員に口答で伝え、書いてもらっている。

 ヘーママーリさんは24年前、料理人をしていたスリランカ人の夫が、名古屋市内で料理店を出すのに伴い、4歳半の長女を連れて来日。その後、次女、三女もさずかり、ラン農家でパートをして家計を助け、育児もした。「読み書きを勉強する時間はなかった」。日常会話はできるが、書けるのは平仮名だけ。漢字交じりの文章は読めない。

 夫と離婚後、10年前に別の介護施設で働き始めた時も、読み書きは比較的必要でなく、利用者とゆっくり向き合え、特別な資格を必要としない入浴介助の仕事を任された。小さいころから看護師にあこがれ、母が曽祖母を介護する姿も見ていた。「入浴や排せつの介助などの仕事も見ているので平気。でも、看護や介護の仕事は資格が必要と聞き、あきらめていたのでうれしかった」と話す。

 できる仕事は心を込めてする。それは、自分の弱点を自覚しているからでもある。2015年9月に、現在の施設に転職し、ホーム長の久野大輔さん(48)にも読み書きが不得手なことを伝えた。「外国人でも読み書きの能力や介護の資格があったほうがいい。でもそれらが十分でも、人との接し方が完璧でない日本人もいる」。ヘーママーリさんと接し、資格では表現できない能力の大切さを実感する。ほかの職員に利用者の名前にルビを書いてもらうよう促すなど、工夫する。

 1年前から一緒に働く橋本悦子さん(27)は、介護士として5年ほど働いてきた。さまざまな外国人をみてきたが「ヘーママーリさんは、対応が一番、丁寧でまじめ。外国人と仕事する上での心配も減った」と話す。

 よく晴れた日曜日、ヘーママーリさんは利用者の女性2人と、施設の周囲を散歩した。道路脇に咲く小さな花を指さし「かわいいね。とろうか?」と尋ねる。車いすの女性は「かわいそうよ」。寒風にあおられ、施設に戻る道すがら、ヘーママーリさんは2人に「暖かくなったら、もっと歩いて回ろうね」と語り掛けた。「楽しみにしてます」と応じる2人に、ヘーママーリさんの表情がさらに柔らかくなった。(出口有紀)

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