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発達障害者 気軽においで

(2017年3月31日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する

息子自死した女性 カフェ開き3年 昭和区

画像発達障害のある人が集うブックカフェ「こねっこ」で男性スタッフと談笑する上口さん(手前右)=名古屋市昭和区で

 発達障害のある人たちが集い、語り合う喫茶店が名古屋市昭和区にある。就労支援施設でもある「ブックカフェ こねっこ」。設立者の上口美弥子さん(59)=同区=は、発達障害に悩んだ長男が自死した経験を持つ。「息子のような人がほっとできる場所にしたい」。今月、開店から3年を迎え、障害のある人や親たちの大事な「居場所」になっている。(小椋由紀子)

 カウンターとテーブルで計20席。書棚には発達障害に関する本が並び、障害のある人たちが笑顔でおしゃべりを楽しむ。上口さんは「ここで初めて仲間とつながることができた人も多い」と話す。

 一人息子の悠樹さんが小学5年の時、発達障害と診断された。料理が好きで家族に振る舞ってくれたが、一方で落ち着きがなくて忘れっぽく、先を予測して行動するのが苦手。どんな生き方ができるか、ずっと悩んでいたという。

画像上口悠樹さん=美弥子さん提供

 うつ状態になり、内定を辞退。2011年5月、21歳で自ら命を絶った。携帯電話に残された遺書には、障害があることの悩みと苦しみ、家族への感謝がつづられ、最後に「発達障害の人達が生きやすい社会を願って」と記されていた。

 栄養士を目指して専門学校に入学したが、就職を控えた厨房(ちゅうぼう)実習で、臨機応変に仕事をこなせなかった。上口さんは「がっくり落ち込んで帰ってきた。『働けない』と思い詰めていた」と振り返る。

 「同じ悩みを抱える仲間と話し合えていたら…。私自身も、これから社会に出る大変さをもっと理解するべきだった」。上口さんは当事者同士の交流が必要と感じ、各地の発達障害者の会を見学、支援者の養成講座に通った。当事者とつながろうと、短文投稿サイト・ツイッターで「理想の場所」について意見を募った。「ゆっくりできて、発達障害の本がいっぱいあって…」。若い女性の当事者に提案されたのがブックカフェだった。

 「こねっこ」のスタッフは16人で、6人ほどが発達障害の当事者。調理や接客をこなすほか、当事者や親同士が悩みを語り合う交流会を定期的に開催。身近な生活情報を提供したり、相談に乗ったりする。口コミで徐々に評判を呼び、来店者は愛知県を中心に岐阜や三重、東京、大阪などに広がった。週末になると、来店客の半分が障害の当事者という日もある。

 常連客だった当事者の男性(23)は、4月から生活支援員として「こねっこ」で働く。「高校時代に発達障害と診断され、大学でうつ病になった。当たり前のことができないのは自分の甘えだと思い、過労で倒れたことも。ここに通って、どこまで頑張ればいいか基準ができた。今度は励ます側として頑張りたい」

 元名大生による殺人事件などの裁判で、被告は発達障害と認定された。同じ障害があるだけで、公判のニュースがテレビで流れると、周囲の冷たい視線を感じる人もいるという。「来店者には一般の人も多い。発達障害に偏見を持つ人もいるが『みんな、普通なんだ』と知ってもらえる場所でもある」と上口さん。障害の有無にかかわらず、だれもが笑いあえる。今は小さな「こねっこ」を、そんな場所に育てるつもりだ。

 発達障害 先天性の脳機能障害の一種。脳の発達が通常と異なるため社会生活が困難になることが多い。自閉症、アスペルガー症候群、注意欠如多動性障害、学習障害などが含まれる。公立小中学校の通常学級の6.5%の子どもが該当するとの国の推計もある。診断を受けずに成長して大人になり、職場などで失敗を重ね、うつ病などを患う例も多いとみられる。

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