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<消えた有権者>(上) 80歳以上で200万人強?

(2017年4月5日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する

国も把握できぬデータ

「消えた有権者」200万人以上の可能性

 介護を受けるようになるなどで、一体、どれくらいの人たちが政治に参加できなくなっているのだろう。介護など多くの高齢者がかかわる問題は国の重要課題なのに、当事者の声を聞かずによいものか。いま一度考えたい。(三浦耕喜)

 きっかけは、隔週水曜日に掲載している本紙の連載コラムで、2月1日付の「生活部記者の両親ダブル介護」への反響だった。投票には欠かさず行く人だったのに私の母(81)は認知症で、父(80)は煩雑な手続きに対するためらいで、いずれも投票できなかった話だ。

 「まったく同感。私の母もそうですから」と語るのは、埼玉県春日部市の女性(66)。90歳の母親は新潟市のグループホームで暮らす。認知症で要介護3。月に一度、母と空き家になった実家の様子を見に通う。

 ある時、実家に昨年10月に投開票された新潟県知事選の通知が届いていたことに気付く。東京電力柏崎刈羽原発の再稼働が争点だった。だが、時すでに遅し。「社会への関心も高かった母です。分かっていれば、絶対に投票に行っていたでしょう」

 厚生労働省によると、要介護(要支援)認定を受けた人は600万人超。その人たちの参政権をどう守るか。選挙制度を所管する総務省も重視し、有識者会議で議論する。会議の概要は資料と共に公開されている。まずは現状を知るのが重要だ。介護認定者の何パーセントが投票できているのか。識者が集まる会議だ。データがあるに違いない。全資料に目を通す。

 驚いた。ないのだ。同省選挙部管理課の担当者に確認する。申し訳なさそうに担当者は答える。「ご指摘通り、そういうデータを取っていないのです」。介護は状態や環境もさまざま。それによって投票へのアクセスも細分化されている。しかし、複雑な仕組みや手続きに埋もれ、全体像が見えないのだ。

 ならば自分で調べるしかない。せめて、おおよその傾向をつかめないか。すると、注目すべきデータに行き当たった。昨年7月の参院選での投票率だ。20〜30歳代は30〜40%台なのに対し、60〜70歳代は7割前後が投票している。

 ところが80歳以上だと投票率は47.16%に激減する。過去の投票率を調べると、彼らが60〜70代だったころは7、8割が投票していた。つまり、少なくとも7割が選挙に行っていた世代が、80歳を超えると半分も行っていないということだ。

 同月の人口推計によると、80歳以上の人口は1030万人。投票率が70%だった場合、投票者数は721万人。だが、実際に行ったのは486万人だ。その差は235万人。この数字は何を意味するのか。同様の傾向は2014年の衆院選でもみられる。投票率は70代は70%ほどだったのが、80歳以上では44.89%だ。

 断定はできない。だが、「消えた有権者」は200万人以上という可能性が浮かび上がってこないか。

 一般財団法人「医療経済研究機構」の西村周三所長に聞く。社会保障政策を経済学の手法で解き明かす「医療経済学」の草分けで、国立社会保障・人口問題研究所の所長も務めた。京都大経済学部の元教授で、私の恩師でもある。

 西村所長は「細かく言えば、施設入所者は施設内でも投票できるので、施設と在宅とは分けて考える点も大事だが、大まかな数値として『200万人以上』という推計は当たっているのではないか」と言う。

 200万人以上いる可能性がある「消えた有権者」。投票しようとすると、どんな困難があるのだろうか。6日の(下)に続く。

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