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手術支援ロボット「ダビンチ」 人の能力を超える執刀

(2017年4月11日) 【中日新聞】【朝刊】 この記事を印刷する

3次元で映像、震えも抑制

画像ロボットアームのコントローラー。手ぶれ補正や動きを小さくする機能があり、人の能力を超えた作業を可能にした

 手術台に横たわる50代の腎臓がん患者の男性の腹部に、巨大なクモのような機械が覆いかぶさった。これから腎臓の部分切除の手術を進めるのは、4本のロボットアーム。操作する医師は、手術台から約2メートル離れた操作台に座り、大きな双眼鏡のような形をした画面をのぞき込む。

 前立腺がんに続き、2016年4月から腎臓がんの一部でも保険適用され、活躍の場が増えた内視鏡手術支援ロボット「ダビンチ」。機械が進める手術を、国内トップクラスの実績がある藤田保健衛生大病院(愛知県豊明市)で取材した。

 ロボットアームの先端には、メスや鉗子(かんし)、カメラが取り付けられている。医師は両手の親指と人さし指でつまんだコントローラーでロボットアームを、両足のフットペダルでカメラと電気メスをそれぞれ操る。あらかじめ切開してあった左脇腹の小さな4つの穴から、ロボットアームの先端をそれぞれ入れた。

 「お願いします」。泌尿器科の白木良一医師はそう言うと操作を始めた。国内で初めてダビンチによる腎臓がんの部分切除手術を成功させた第一人者。前立腺がんを含めダビンチ手術は500例の経験がある。白木医師のわずかな手の動きに合わせて、ダビンチが動きだした。

画像内視鏡手術支援ロボット「ダビンチ」を使った腎臓がんの一部切除手術。執刀する白木良一医師が左後方で操作する=いずれも愛知県豊明市の藤田保健衛生大病院で

 特長の1つが3次元映像。それまでの腹腔鏡(ふくくうきょう)手術では平面の映像で手術を進めたが、ダビンチは臓器回りを立体的に見ることができる。「おなかの中に目があるよう」(白木医師)。記者も青色の手術着とマスク姿で手術室に入り、特殊な眼鏡をかけて、白木医師が見ている映像と同じ映像を見守った。

 さらなる特長は、関節があって自在に動くロボットアームだ。先端部分も360度、自由に曲がる。それまでの腹腔鏡では難しかった場所にある腫瘍でも切除が可能になった。腎臓の場合、以前は開腹手術だったケースでも、ダビンチなら傷口を最小限にして部分切除ができる。術後の合併症の危険性も減る。

画像ダビンチの本体(右奥)と医師が座る操作台

 白木医師は、先端が米粒ほどの大きさの鉗子や電気メスを操っていった。腎臓を取り囲む脂肪や組織の薄い膜を鉗子で挟み、少しずつ電気メスがはがし取っていく。少しでも血管や他の臓器を傷つければ大量出血を招きかねない。

 ダビンチは手の震えを打ち消すように補正。手を5センチ動かしても、ロボットアームでは1センチにとどめられる機能もある。「自分の手のように動かせるだけでなく、人の能力を超えた精密な作業もできる」

 壁のデジタル時計が時間を1秒ずつ刻み始めると、手術室の空気がぴりっと引き締まった。腫瘍の切除を前に、動脈をクリップで挟んで血流を止めたからだ。

 血流を止める時間が長くなればそれだけ腎臓への負担は大きくなる。25分以上になると腎臓の機能が下がり、1時間を超えると機能しなくなることもある。ダビンチ以前の腹腔鏡手術では、操作性が悪いため時間内に部分切除することが難しいケースが多かった。20分以内が理想的といい、まさに時間との闘いだ。

画像4本あるダビンチのロボットアーム。先端にメスや鉗子、カメラを取り付け、患者の体内で自在に動く

 白木医師は両手の指に神経を集中させながら、腫瘍を探り当て、電気メスで切り取っていった。ミリ単位の作業だが、10倍に拡大された3次元映像では目の前に迫ってくるように見えた。3センチほどの腫瘍を取り出し、切った部分を素早く縫合していく。

 血液を再び腎臓に流したとき、デジタル時計は20分51秒。理想に近い時間だ。ダビンチのアームを挿し込んだ傷を縫合し、予定の3時間より早い2時間16分で手術が終わった。(河野紀子)

 腎臓 腰のあたりに背骨を挟んで左右2つある、ソラマメのような形をした臓器。血液をろ過して老廃物を排出し、体内の塩分量や血圧を調整するなど重要な役割を果たす。そのため腫瘍が7センチ以下の場合、全摘ではなく部分切除で残りの腎臓を温存するのが標準的な治療となっている。全摘よりも温存した方が、将来の脳卒中や心筋梗塞のリスクを下げることができる。

保険適用は一部のみ

 ダビンチは1999年、米国のインテュイティブサージカル社が開発。開腹手術に比べて傷痕が小さく、術後の回復が早い腹腔鏡手術の操作性を飛躍的に高めた。2009年に日本でも販売が始まった。

 現在、ダビンチは世界で約3900台、日本でも16年9月時点で240台が導入されている。国内ではこれまで、前立腺がんや腎臓がん、胃がんなどで手術が実施された。藤田保健衛生大病院では09年1月に導入、16年9月までの約8年間で1500件を超える。

 藤田保健衛生大病院には、メーカーが認定したトレーニングセンターも併設。ダビンチを扱うには、まずここで2日間、操作を学ぶ公式トレーニングを受けることが義務付けられている。その後、メスの動きや縫合などシミュレーションを繰り返して技術を磨く。

 当初はダビンチを使った手術は保険適用外で、12年に前立腺がん、16年には腎臓の部分切除手術が保険適用された。胃がん、喉頭がんなどの手術は、保険診療との併用が可能な先進医療が適用されている。それ以外の手術は自己負担で、200万〜300万円が必要となる。従来の腹腔鏡手術に比べて優位性が証明されないと、保険適用される手術の拡大は難しそうだ。

 課題はコスト面だ。ダビンチは1台当たり3億円、維持費は年間1400万円にも上る。何種類もある鉗子は10回使い捨てで、1回あたり4万〜5万円。がんの種類によって手術で必要な鉗子の数は変わるが、手術1回当たり22万円にもなり、治療費に跳ね返る。ダビンチの競合メーカーはなくコスト削減の余地は限られる。国内では名古屋市立大(名古屋市瑞穂区)が中部の企業と連携し、国産で低コストの手術支援ロボットの開発を目指している。

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