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〈味な提言〉(10) 握り寿司文化を開花させた酢 メタボ対策にも効果

(2017年4月9日) 【中日新聞】【朝刊】【愛知】 この記事を印刷する

名城大農学部教授(応用微生物学研究室) 加藤雅士さん (10) 

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 前回、江戸時代に廃棄物の酒粕(さけかす)から造った焼酎を活用してみりんが製造されたことをお話ししましたが、ほぼ同じ時代に、酒粕を使って日本食の発展に大きく貢献した人物がいました。知多半島の半田の地で酒粕からの食酢造りを始めた中野又左衛門(またざえもん)(現在のミツカングループの創始者)です。

 酢は本来、酒を原料として酢酸菌という微生物により、再発酵させて造ります。そのため、当時としてはとても高価な調味料だったものと推測されます。

 当時、江戸で「早ずし」(今の握り寿司(ずし)の原型)が流行(はや)るのを予見した又左衛門は、酒粕を原料にした安価でしかも味の良い酢(酒粕からつくる粕酢は旨味(うまみ)もしっかりとありました)を生み出し、江戸に千石船を使って売り込んだのでした。

 当時の江戸には地方の藩から妻子を残して武士たちが集まっていました。今でいう単身赴任社会でしたので外食産業が発達するのは自明のことでした。立ち食いの寿司や蕎麦(そば)は江戸時代のファストフードとなったわけです。

 こうした背景で、又左衛門の粕酢が江戸で大人気となり、江戸前の寿司文化が開花するのを強力に推し進めることになりました。今や世界中に広がっている握り寿司文化ですが、半田の酢造りがなければここまで広がることはなかったかもしれません。ミツカンの酢造りの歴史については、半田市にあるミツカンミュージアムで楽しく勉強することができます(予約と入館料が必要ですので、ホームページ等でご確認ください)。

画像多種多様な酢製品の土産も人気を集めるミツカンミュージアム=半田市で(2017年1月撮影)

 東海地方にはミツカングループ以外にも小規模ながら醸造酢の会社がいくつか存在しています。阿久比町の三井酢店(みついすみせ)や岐阜県の内堀醸造などのバラエティーに富む飲む酢は、健康志向の方を中心に人気があります。酢にはどのような効能があるのかを紹介しましょう。

 まず、当たり前ですが料理に酸味を加えます。これにより、塩辛味や脂っこさを抑えたりする作用があります。殺菌・防腐効果により食品の日持ちがよくなります。タンパク質を変性させる効果を利用したのが締めさばで、魚肉が引き締まり、食感が良くなり、同時に魚の生臭みを抑えます。リンゴやゴボウ、レンコンなどの変色を抑え、料理を奇麗に仕上げる働きもあります。

 このように、おいしさや見た目に効果のある酢ですが、ミツカングループの研究から食酢の摂取がメタボリック症候群の対策として効果があることも分かってきました。毎日大さじ1杯の食酢を摂(と)ることで内臓脂肪が減少すること、高めの血圧を緩やかに下げること、高めの血中脂質(総コレステロールおよび中性脂肪の両方とも)を低下させること、食後の血糖値の上昇を緩やかにすることが報告されています。この他、日本人が不足しがちなカルシウムの吸収効率を上げたり、疲労回復作用があったり、減塩に役立ったり、食欲増進作用があったりで、体にもおいしい調味料なのですね。

 記録によると約7千年前、古代バビロニア時代から造られていたという酢ですが、人類がそんなに前から使ってきた理由も分かる気がします。次回は味噌(みそ)の話をしたいと思います。

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