つなごう医療 中日メディカルサイト

臓器提供の実施 鍵を握る主治医

(2017年5月2日) 【中日新聞】【朝刊】 この記事を印刷する

家族への提示 意識付けを

臓器提供と意思確認の流れ

 国内で臓器提供が伸び悩んでいる背景の一つは、患者の家族に対する選択肢の提示に医療現場が消極的だからだ−。日本脳神経外科学会の専門医で、北九州湯川病院(北九州市)の吉開(よしかい)俊一医師(57)は、臓器提供を担当した経験から、こんな指摘を講演などでしている。提供を増やす鍵は、脳死状態となった患者の主治医が握っているという。(稲田雅文)

 「たとえ主治医が移植医療に否定的な考えを持っていたとしても、臓器提供をしたいと思う家族の意思を闇に葬ることは許されるはずがない」。小牧市民病院(愛知県小牧市)が先日、医師や看護師など職員向けに開いた講演会。吉開医師は、欧米に比べて臓器提供が進まない理由について、臓器提供側の医師の姿勢を挙げた。

 脳死状態となった患者が、意思表示カードや運転免許証などで提供の意思を表示していたとしても、臓器提供が自動的に進むわけではない。まずは主治医が「この患者はドナー(臓器提供者)になり得る」と判断する必要がある。その上で、家族に患者本人の意思表示の有無を確認し、臓器提供が可能であることを伝えて家族内で話し合ってもらう。家族から「説明を聞きたい」と返答があれば、移植コーディネーターにつなぐ=図。

 2010年の臓器移植法改正で要件が緩和され、書面での意思表示がなくても、家族の承諾で臓器提供ができるようになった。しかし、脳死のドナーが増えたのに対し、心停止下でのドナーは激減。双方を合わせたドナーの総数は横ばいだ。吉開医師は「患者の意思表示の確認と家族への選択肢の提示を避ける医師が多いままだから」と指摘する。背景には、移植医療が抱える構造的な理由と、医師の意識の問題がある。

 吉開医師によると、15年末までのドナーで最も多かったのが脳血管障害の患者で全体の52%。おぼれたり自殺を図ったりといった救急領域の患者が25%、頭部外傷が17%だった。

 臓器提供は、脳神経外科と救命救急科の医師が担うことがほとんどだが、普段の診療で臓器移植を手掛けていないため「多くは知識がなかったり、無関心だったりする」(吉開医師)。「目の前にいる患者が絶望的なときに、目の前にいない患者を助けようと意識するのが移植医療だが、一部の医師しか意識できていない」と話す。

 そもそも、臓器移植法が施行された1997年以前に医師となったベテランは、移植医療について詳しい教育を受けていない。臓器提供は「残酷でかわいそう」「救命医療の敗北」と否定的な考えの医師もいる。

 かつては吉開医師も、移植医療を「うさんくさい」と感じていた。脳神経外科医が助けられなかった脳死患者の臓器を、移植医らがもらい受けに来るのは「失礼だ」とさえ考えていた。

 しかし2004年、当時勤めていた病院が実施した心停止後の腎臓提供にかかわった。その後の移植コーディネーターとの交流や、自ら手掛けた腎臓提供の患者家族から「息子の腎臓が2人の役に立っていることをうれしく思う」との手紙をもらったことなどから、移植医療を前向きにとらえるように。心停止下の腎臓提供を11例実現させた。

 選択肢の提示については「『お亡くなりになることは避けられませんが、最期に臓器提供をお考えですか』と声を掛ければ十分」と語る。学会で臓器提供側から見た日本の移植医療の問題点を発表したり、啓発活動に取り組んだりするようにもなった。

 ドナーの家族は、提供を決断した理由を「本人の意思を尊重したい」「最期に人の役に立たせたい」「臓器だけでもどこかで生きていてほしい」などと語ったという。「医師が『自分は臓器提供はしないし、家族もさせない』と個人的に考えるのは自由。しかし、医療のプロである以上は、臓器提供の意思は尊重しなくてはならない。教育でプロ意識を植え付けることが大切だ」と指摘する。

中日新聞広告局 病医院・薬局の求人