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介護通し新たな夫婦愛 認知症めぐる独の記録映画

(2017年5月10日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する

全国で公開 高齢化日本にヒント

画像映画「わすれな草」の一場面。寄り添い、触れ合うマルテさん(左)と妻グレーテルさん

 ドイツの認知症の家族介護をテーマにしたドキュメンタリー映画「わすれな草」が、日本で公開されている。認知症が進み家族を忘れていく妻と、その妻をそのまま受け止める夫を追った作品で、妻の認知症をきっかけに、ドライな面もあった夫婦が愛情を深めていく様子を息子の目線で描いている。全国各地で順次公開されており、認知症の介護に悩む日本の家族に大きなヒントを与えている。(出口有紀)

 4月中旬、東京で開かれた映画の公開を記念するシンポジウム。「私は過去の妻の記憶に頼らず、そこにいる妻と向き合った。『家族の顔が分からなくなった』と嘆かず、目の前にいる人と新たな関係を築くチャンスを生かすべきだ」。映画に登場する夫で、フランクフルト近郊で暮らすマルテ・ジーベキングさん(77)が、参加者38人に語りかけた。

 映画を製作したのは、マルテさんの長男で映画監督のダービットさん(39)。アルツハイマー型認知症があり、2012年に74歳で亡くなった母グレーテルさんとマルテさんを1年半かけて追った。介護に奮闘した自身の姿も記録した。

 ダービットさんは、症状を改善させるヒントを得ようと母の過去をさぐった。1960〜70年代に母が、居住していたスイスで女性参政権の実現などに向け活動していたことなど、知らなかった母の一面を知った。母はドイツ語教師として働き、66年に数学者の父と結婚した。

 息子の目から見た両親は、互いに自立し干渉しない理想的な間柄だったが、互いに浮気を認め合う関係でもあった。母の日記には、嫉妬を抑えつつ家事や子育てを一手に引き受け、苦しむ心情がつづられていた。

 日記を読むことは、マルテさんの転機にもなった。「彼女から、相応の愛を求める『請求書』が来た。今から払わねばならないと思った」と振り返る。

 カメラは、関係が変わっていく夫婦の姿を追う。以前は寝室も別だったが、マルテさんが添い寝し、手をなでられて「いい気持ち」と満足げな表情を浮かべるグレーテルさんを映す。以前は距離感があった夫婦だが、グレーテルさんから「愛してる」という言葉も出るようになった。マルテさんは「声のトーンをやさしくし、体に触れるなど、今までにない形で接した。以前、妻は自分の感情をあらわにしない方だったが、自分のことを語りだした」と、過去の妻の姿にこだわらないことで、新たな夫婦の幸せができていったことを振り返った。

 東京では渋谷区のユーロスペースで公開中(最終日未定)。名古屋では、6月3〜16日に千種区の名古屋シネマテークで。

外国人家政婦が力に

 欧州連合(EU)の圏内では、人材の移動や就労の自由が認められており、ドイツでは東欧諸国などからの出稼ぎ労働者らが家族介護を支える力にもなっている。映画にも、マルテさん、グレーテルさん夫妻を力づけるリトアニア人女性らが登場する。

 マルテさんは、リトアニア人女性ら5人に妻の介護を依頼。「ドイツ人を雇うよりずっと安い。愛情込めた接し方をしてくれて、助けになった」と話す。

 ドイツの介護保険制度や外国人労働に詳しい京都大大学院の安里和晃(あさとわこう)特定准教授によると、現在、ドイツにいる外国人家政婦は約22万人。母国の年金では暮らしていけず、ドイツで就労する人も多いという。

 一般的には、費用は月20万円ほどというが、ドイツでは介護保険の給付金を家政婦の費用に充てることもできる。安里さんは「それでも自己負担分が多く、恵まれた家庭しか雇えないが、施設入所はさらに高額。要介護者の在宅生活の質を保つためにも、ドイツでは介護のために外国人家政婦を雇う家庭は珍しくない」と話す。

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