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こうのとりのゆりがこ10年

(2017年5月10日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する

預かり125人、電話相談は13倍に

子の福祉どう守る

 親が育てられない赤ちゃんを匿名で預け入れる「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)を運営する熊本市の慈恵病院。24時間対応の妊娠相談窓口に寄せられる相談件数は増加傾向にあり、2016年度は6千件を超えた。全体の約7割が県外からだ。一民間病院には負担が大きく、元看護部長で「全国妊娠SOSネットワーク」理事の田尻由貴子さん(67)は「相談で救える命もある。全国的な相談体制が必要だ」と訴える。

 市によると、16年度に慈恵病院が受け付けた相談件数は過去最多の6565件。赤ちゃんポストを開設した07年度の13倍に増えた。「破水した」などと緊急の電話がかかり、遠方の病院や警察との連携が求められる事例もある。

 田尻さんは慈恵病院のように「24時間フリーダイヤルでの相談が理想」と話す。一方で、財政や人員確保の観点から「理想」を満たす窓口はほとんどないのが現状だ。

 4月施行の改正母子保健法は、妊産婦への切れ目ない支援のため、保健師や助産師が相談に応じる「子育て世代包括支援センター」の設置に努めるよう市区町村に求めた。16年4月時点で約17%の296市区町村に置かれ、国は20年度までの全国設置を目指している。

画像熊本市の慈恵病院に設置された「こうのとりのゆりかご」。扉を開けると中に保育器がある

理事長「命守れた」

 慈恵病院の蓮田太二理事長は、ゆりかごの運営開始から10日で10年になるのを前に9日午後、市内で記者会見。15年度までの預け入れが125人となったことに「(妊娠・出産を)人に知られたくない人に、安心して赤ちゃんを預けてもらいたいと思って始めた。赤ちゃんの命を守るという点で役目を果たせた」と述べた。

 一方、預け入れ後の行き先に関し「必ずしも(特別養子縁組など)家庭での養育になっていない。その後の幸せを考えると悩む」と話した。近年の預け入れが年10人程度で推移していることを「少なく感じる」として、潜在的な救える命がまだあるとの考えを示した。

思春期迎え支援課題

 山崎史郎・熊本学園大社会福祉学部教授(発達心理学)の話 こうのとりのゆりかごに預けられた子どもの数は少なく、抱える問題が埋没している可能性がある。プライバシーの関係から、外部からのフォローは難しい。法整備を進め、関係機関による切れ目のない支援を行う必要がある。運営開始当初に預けられた子どもは、間もなく思春期を迎える。身元が判明しておらず、家族や預けられた理由に関心を持ったときに、誰がどう寄り添えるかが課題だ。

出自知る権利議論を

 柏女霊峰(かしわめ・れいほう)・淑徳大教授(子ども家庭福祉学)の話 命が救われる一方で、預け入れが匿名のため、子どもの「出自を知る権利」が損なわれる。出自を知ることはアイデンティティーの確立に必要で、この課題を解決しなければ、ゆりかごの取り組みは全国に広がりにくいだろう。国民的な議論が求められている。

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