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在宅緩和ケア 「日記」で連携 福井大病院 医師、介護士ら症状を共有

(2017年5月16日) 【中日新聞】【朝刊】 この記事を印刷する
画像父親の在宅緩和ケアを支えたやわらぎ日記を見る女性=福井市で

 福井大病院(福井県永平寺町)などは、がんの終末期に自宅で過ごすことを希望する人を支援する手帳「在宅緩和ケア地域連携パス やわらぎ日記」をつくり、普及を進めている。患者宅を訪問する医師や看護師、介護士らが手帳を通じて情報共有をすることで、在宅でも病院と質が変わらず、切れ目のない医療の提供を目指している。(稲田雅文)

 福井市の50代女性は2月、病院から出ることを強く望んだ90歳の父親を自宅でみとった。がんの苦痛を抑えつつ、人生の締めくくりに好きな物を食べさせ、彩りのある生活を送らせられたのは「やわらぎ日記のおかげ」と振り返る。

 父親は舌がんが再発して昨年10月に福井大病院に入院した。2カ月の入院後、病状が終末期の段階だと悟り「病院はもう嫌だ」と自宅に戻った。女性は「勤めているので自宅で支えられるか不安だったが、残された時間を希望通りに過ごさせたかった」と話す。

 緩和ケアでは、医師や看護師、薬剤師、理学療法士ら、さまざまな職種が集まるチームが協力して支える必要がある。在宅では、生活を支えるケアマネジャーや介護士も重要だ。それぞれの専門職は入れ替わりで訪問するため、うまく連携するために必要になるのが情報共有の仕組みだ。

 やわらぎ日記は、家族の状況や病気の経過、日常生活がどこまでできるかなど、患者の基本的な情報を書き込んだ上、日々の経過を記録していく。

 特徴の一つが、体や心のつらさを「痛み」「全身のだるさ」「呼吸困難」「便秘」など11項目に細分化し、「症状がない」から「ひどい症状が持続的にある」まで、5段階で客観的に評価して記録できる点だ。看護師が訪問ごとに記録し、医師は何を治療すべきかが一目で分かる。

 オレンジホームケアクリニック(福井市)の家庭医で、やわらぎ日記の研究をする児玉麻衣子さん(39)=福井大病院特命医師=は「がんの専門医と在宅を支えるかかりつけ医が統一の基準でつらさを評価することで、連携のとれた緩和ケアができる」と狙いを話す。

 自由記入欄には、医師や看護師が処置や治療の内容を記載するほか、介護士や家族、デイサービスセンターの職員らが「今日は朝から食欲があった」「ひげを自らそるなどセルフケアの意欲が出た」などと気付いた点を書き込む。医療者は、患者の状態を別の視点からも知ることができ、日々の療養に生かせる。

 もう一つの特徴が、患者と家族が自宅で何を希望するのかを書く欄を最初に設けてあることだ。男性の場合、散髪と大きなお風呂での入浴を望んだ。女性は「本人が何をしたいのかが分かり、目標が持てた。自分が仕事で不在のときやデイサービスに送り出したときの様子もよく分かり、安心して仕事を続けることができた」と語る。

 内閣府の2012年の調査では、54.6%の人が「最期を自宅で迎えたい」と望んでいる。しかし、厚生労働省のまとめでは、在宅死亡率は14年に12.8%にとどまる。福井大が14年10月から16年10月までのやわらぎ日記の使用者を調べたところ、在宅死亡率は42%で、使っていなかった人の14%に比べて明らかに高かった。

 児玉さんは「自宅での生活を支えるチームがきめ細かに症状を把握して苦痛などをコントロールできたことが、在宅死亡率の向上につながった」と指摘する。

 やわらぎ日記は福井県のほか、石川、富山県でも共通で使われ、今後は緩和ケアや生活の質が向上しているかを調べていく。

 緩和ケア がんなど重い病と診断された人やその家族を対象に、痛みなどの体の苦しさを薬を使ってなくすだけでなく、落ち込みや不安などの心のつらさをカウンセリングなどでやわらげ、より質の高い生活を送れるように支援する。終末期だけでなく、命を脅かす病気と診断された段階から始まる。

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