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介護者の人生も支えて 「介護殺人」研究 日福大・湯原准教授に聞く

(2017年5月17日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する

「過度の負担」ない社会に

画像「介護者が過度の負担なく生きられる社会づくりを」と話す湯原悦子さん=名古屋市昭和区で

 介護の必要な人が600万人を超える高齢社会の中、介護者が高齢者を殺害したり、心中したりする事件も後を絶たない。こうした「介護殺人」の研究で知られる日本福祉大准教授の湯原悦子さん(47)は、「介護殺人の予防−介護者支援の視点から」(クレス出版)を出版した。過去20年間に発生した750件以上の事件のデータと判例の分析をもとに「どうすれば防げるか」を掘り下げている。その思いを聞いた。(編集委員・安藤明夫)

 −このテーマで2冊目の著書ですね。

 12年前に「介護殺人−司法福祉の視点から」(2005年・クレス出版)を出して、かなりの反響がありました。以後、いろいろな場で「介護殺人を減らしていくために事件の検証と介護者支援の施策が不可欠」と言い続けているのですが、遅々として進まない。それで「予防」という視点に絞って、今回の本を書きました。

 −「事件の検証」のため、データベースの必要性を訴えていますね。

 2007年に、警察庁の犯罪統計の中に「介護・看病疲れ」の項目が新設されました。それ自体はすばらしいことですが、年齢の区分がなく、高齢者なのか障害者なのか分からない。厚生労働省の死亡例調査も、担当者の判断で事例がカウントされたり、されなかったりする。心中事件の扱いもあいまいです。私は新聞のデータベースから事件記事を掘り起こして、20年間に起きた756件をリスト化しましたが、それでも全体像は見えない。どれぐらいの数、どんな形で起きているか分からない状況では、有効な対策は難しいです。

 −判例を調べる中で、教訓にすべきだと思ったのは、どんな点ですか?

 マスコミは、介護に疲れ果て、追い詰められ、事件に至ったという論調になりやすいですが、介護が危機的な状況ではなくても、心中を図った事例はいくつもあります。新聞ではよく「将来を悲観して」と表現されるケースです。経済苦の問題とともに、第三者が介入しない閉ざされた人間関係の中で起こりやすいと感じました。その背景にあるのは一般の人が介護に強い不安を感じていること。知識を持たないまま「介護は怖い」「要介護になると、迷惑をかける」といったイメージが広がっているようです。

 それと「この人に介護を任せてしまっては無理だろう」と思えるケースもありました。長年引きこもっていたり、仕事もあまりせずに親と同居していた息子などは、介護を任されても動けないことも多い。介護者の力量を見極めることもケアマネジャーなど支援者の責任です。

 −だからこそ「介護者支援」の充実が必要と。

 はい。欧米の先進国に比べて、日本の介護者支援は大きく遅れています。イギリスが政策の基本にしている「4つのモデル」は、参考になります。社会が介護者をどう見るかについて(1)無償の社会資源(2)専門職と協働してケアに従事する人(3)支援の対象(4)社会に生きる一人の個人−という4段階があるというモデルです。日本は、家族が介護するのは当たり前という考え方がまだ根強く、(1)か、せいぜい(2)の段階ですね。介護者も要介護者も支援しなければいけないという(3)の政策が進められて初めて「介護者の人生が社会の中で守られ、生きられる」という(4)の段階に到達するのだと思います。介護者が将来を悲観することなく、過度の負担を強いられない社会を築いていくことが、早急に取り組むべき課題です。

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