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〈生きる支える 心あわせて〉 いーばしょ(上)

(2017年5月24日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する

思い語れる安らぎの場

画像ミーティングで思いを語り合うメンバーたち=三重県桑名市の「いーばしょ」で

 4月のある日の午後、三重県桑名市の市街地にある障害福祉サービス事業所「いーばしょ」で、定例のミーティングが始まった。

 この日のテーマは「自分の将来」。「メンバー」とよばれる通所者の中で、進行役のマキさん(28)が口火を切った。

 「私は、作家になりたいと思って勉強したけれど、病気がひどくなって、本を読むことも、文章を書くこともできなくなった。でも今になって、もう一回やってみようって気持ちになっています。みんなはどうですか」

 十数人のメンバーが順に答えていく。「働きたい」「もっと工賃がもらえるA型の事業所に行きたい」「遠慮したり、壁をつくったりする自分を変えていきたい」「まだ働くことを考えられないけれど、サックスを買いたい」…。うつ病や統合失調症などで社会生活が難しくなった人たちだが、リラックスした表情で病気や障害を感じさせない。

 ミーティングの効果について、理事長の久野充敬(みちたか)さん(67)は「もともと高いコミュニケーション能力のある人たちなのに、病気のせいで、考えが頭の中でぐるぐる回って言葉にできないことも多い。自由に安心して話せる機会を増やすことが大切です。だから作業中の雑談もOK」と説明する。

 個人にかかわる問題は、スタッフが答えを出さず、必ず本人を交えて話し合う。

 マキさんは、ここに来て間もないころ、精神疾患を理解できなかった父との関係に悩み、久野さんに相談した。すると父、祖母ら家族を含めた話し合いの場を久野さんが設定してくれた。

 「父に、今まで言えなかった感謝の思いを伝えられたし、父もいーばしょの良さを理解してくれた。そこから元気になれました」

 いーばしょのもう一つの特徴は「お金も、規則もない」こと。年間事業費はわずか1200万円。常勤は施設長の野田盛二さん(52)と女性スタッフの2人だけ。送迎車もない。メンバーは自分で体調を判断して、行くか休むかを決める。作業は午前中の2時間だけ。収入が少ないため、工賃は月額平均3千円と、県内の最低水準だ。2階建ての建物は延べ50平方メートルで築50年。1階の作業スペースは、20人が限界の狭さだ。

 「でも、居心地がいいんです」と男性メンバー(51)は話す。「前に通った事業所は、恋愛禁止、飲み会も禁止。スタッフは上から目線でした。ここは、信頼して任せてくれる」

 安らぎの場を得て、元気になった人たちは、次の段階を目指す。設立から4年に、支援した42人のうち20人が巣立ち、一般就労を実現できた人が3人、本格的な作業を求められるA型事業所で頑張る人も11人いる。利用者の滞留が課題の福祉事業所の中で、かなりの好成績だ。 (編集委員・安藤明夫)

 いーばしょ NPO法人よすがが、2013年4月に設立。心の病気や障害のある人を対象に、雇用契約を結ばずに就労の機会を与える「就労継続支援B型」(内職、自主製品作りなど)と、自分のペースで利用できる「日中一時支援」の事業をしている。

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