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〈生きる支える 心あわせて〉 いーばしょ(下)

(2017年5月25日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する

素朴で温か 素人の挑戦

昨年10月に出版された「シロウトですんません」昨年10月に出版された「シロウトですんません」

 当事者を主役に、ゆるやかな支援を志す三重県桑名市の障害福祉サービス事業所「いーばしょ」は昨年10月、自分たちの活動を記した本を出版した。タイトルは「シロウトですんません」(やどかり出版)。副題も「精神の疾病や障害を抱える人たちとの『どもならんなぁ~』の<い~ばしょ>の3年間」と、“ゆるさ満開”だ。

 そもそもスタッフに、福祉のプロはいない。理事長を務める久野充敬(みちたか)さん(67)は、東京のCM業界で働き、バブル期の狂乱も体験した。津市に移ってカメラマンの仕事をする中で地域福祉に関心を持ち、日本福祉大の通信教育を受けて、精神保健福祉士の資格を取ったのが60歳の時。やがて、がんが見つかり、手術で胃の4分の3を切除した。その後も二度入院するなど、体調は思わしくなかったが、3年前に誘われてここへ来た。

 「病気になったことで、メンバーさん(通所者)との付き合い方が分かった気がします。常に対等の立場でありたいし、こちらが学ぶことが多くてとても楽しいです」。かつては、学生運動で名をはせた日大全共闘の闘士。今は、弱者の抱える問題を調整したり、持っている力を引き出したりするソーシャルワークの世界に「社会正義って言葉は生きていたんだなと思います」と、穏やかに語る。

作業の手を休め、利用者と雑談する久野さん(右)、野田さん(中)=三重県桑名市の「いーばしょ」で作業の手を休め、利用者と雑談する久野さん(右)、野田さん(中)=三重県桑名市の「いーばしょ」で

 施設長の野田盛二さん(52)も、久野さんとほぼ同時期に、日本福祉大の通信教育で精神保健福祉士の資格を取った。それまでは、大阪の芸能事務所でタレントのマネジャーをしたり、名古屋の環境系の市民団体のスタッフも務めたりした。人間関係に悩んだ時期もあり「苦しんでいる人たちには、互いに心地よい関係が何より必要」と、資金不足のまま立ち上げたのが「いーばしょ」。事業所で使う軽乗用車やクーラーは、メンバーや地域の人から寄付してもらった。

 「自分が利用者だったら行きたくないと思うようなルールは作りたくない」。作業中でも、疲れれば2階の休憩室で布団を敷いて寝ても構わない。遅刻、早退も自由。

 ミーティングで将来の夢を語り合ったとき、野田さんが挙げたのは「里山と古民家を買って、老いも若きも、みんなが自由に集まって遊び、体験できる場にすること」。それが地域福祉の一つの理想だと考えている。

 メンタルの問題は、単一の解決策はない。いーばしょに数日通っただけで来なくなる人、通い続けても一進一退の人もいる。仕事の厳しいA型の事業所に移った後、「日中一時支援」のサービスを使って「いーばしょ」を息抜き場所に併用する人もいる。

 京都市で精神科のクリニックを営み、全国でも珍しい在宅患者の訪問診療を手掛ける高木俊介さんは「精神障害者の就労移行支援などが制度化され、それ自体はいいことだが、一方で素朴で温かい交流が失われているような気がする。そんな中で、プロではなく素人であることを大切にしている『いーばしょ』は、社会の中の居場所として大切だと思う」と話す。(編集委員・安藤明夫)

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