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難病でも人生楽しむ 自ら事業所設立、市と折衝

(2017年5月26日) 【北陸中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する

「重度訪問介護」を積極活用

画像パソコンを見る大懸誠さん=富山県黒部市の自宅で

 筋肉が動かなくなる難病「筋委縮性側索硬化症(ALS)」を患う富山県黒部市の元地方公務員大懸(おおがけ)誠さん(51)は石川、富山両県で唯一、公的制度「重度訪問介護」で24時間の介護支援を受けている。発症後は病院や自宅という限られた世界での暮らしだったが、現在は制度を活用し、コンサートに出掛けるなど、人生を楽しもうとする意欲が再び出てきた。 (蓮野亜耶)

 全身が徐々に動けなくなりつつあった2012年9月。ALSと診断され、ベッドに寝たままの人生になると絶望した。動かせるのは目と口。会話はできるが、人工呼吸器を着けている。

 入退院を繰り返し、自宅で家族の介護を受けた。食事や入浴は両親が手助けし、高齢の両親の肉体的な負担は大きかった。夜に、たんを吸引してもらいたいと両親の部屋につながるコールを鳴らしても、両親は疲れ切って寝入ってしまうことも増えた。「負担は掛けられない」。24時間の介護を受けようと15年4月に支援を申請した。

 富山県内に24時間対応できる事業所がないことが壁だった。そのため看護師を雇い、自身を介護するチームをつくろうと事業所の設立を決意。市と折衝を続け、同年9月に月882時間分の介護費支給を受けられることになった。

 決定後、求人を出して看護師、介護福祉士とヘルパー3人を雇用。8時間交代で介護を受ける。

画像ヘルパーとともに、ポール・マッカートニーさんの公演に出かけた大懸さん(中)=東京ドームで

 生活は変わった。今年4月末に、元ビートルズのポール・マッカートニーさんの公演に出かけた。ヘルパー3人の協力もあり、車いすで初めて北陸新幹線に乗って東京ドームへ。歌うポールさんに興奮した。5月上旬には、金沢市内で重度訪問介護を利用して自立した生活を目指す筋ジストロフィーの男性患者(44)を見舞い「今度はお互い病院の外で会おう」と励ました。

 大懸さんは「私が外に出ることで、障害者が当たり前に外出できる社会になれば」と話している。

 重度訪問介護の24時間支援をしているのは全国で100市町村ほどにとどまり、受給までの壁は高い。介護保障を考える弁護士と障害者の会全国ネットによると、都道府県別で24時間の支給例がないのは石川県だけ。石川県の今年2月現在のまとめでは、金沢市など5市町の18人が短時間の支援を受けている。

 利用が広がらない背景として、全国ネットの共同代表で弁護士の藤岡毅さん(54)は「個人で自治体と交渉する場合、事業所がないと言われたときにどう対応していいのか分からず、あきらめてしまうこともある」と指摘する。ヘルパーが制度の利用者にかかりきりになるため、事業所内でも人のやりくりが難しくなるとも考えられている。

 市町村の財政的負担も課題。支給費の負担は国が半分、県と市町村が4分の1ずつ。だが、障害支援区分ごとの障害者の人数によって国の負担額基準が設定されており、基準を超えた分は人口規模によって市町村が払うようになっている。

 藤岡さんは「行政は自助、共助で何とかしてほしいという姿勢が強く、公助である制度を使わせないようにしているのではと思うこともある」と話す。

 重度訪問介護 障害者総合支援法に基づくサービス。6段階の障害区分で4以上の重度障害者が自宅で入浴、食事、排せつ、外出時の支援など総合的な介護を受けることができる。市町村が支給決定する。2006年度から始まった。

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