つなごう医療 中日メディカルサイト

〈味な提言〉(2) 長野のおやき 季節の味楽しんで継承

(2017年6月11日) 【中日新聞】【朝刊】【愛知】 この記事を印刷する

フリー編集者 木村信夫さん

画像

 北信濃を旅して出合う、おやき。素朴なかたちのなかに包まれているのは、小豆だったり、カボチャやナスだったり、野沢菜漬けだったり、切り干し大根料理だったり、と、じつに多彩。地域により、家により少しずつ違う百人百様のわが家の味・おやきに込めた思いや技を「日本の食生活全集」『聞き書(がき) 長野の食事』(農文協刊)に見てみよう。

 《おやきは、粉を練って丸くつくるが、『まる』をとって、まとめる、まるめるといって、おめでたい意味にもつなげ…生活の無事を祈ったり、神への感謝、また先祖へのごちそうにしたりしていた》(「西山の食」から)

 長野市の西郊外、西山地方は傾斜地のため水田がなく、畑で作る麦が主食源。そのため、小麦粉の食べ方にさまざまな工夫をこらした。たとえば麺でも、もっとも細く切った「おとうじ」(そうめん)、「うどん」、太くて短い「おぶっこ」など数種類をつくりわける。こねて指で薄く延ばし、野菜などの味噌(みそ)汁に入れるのが「おつめり」(すいとん)、あんを包んで焼くのが「おやき」という具合だ。

画像いろいろなおやき=「長野の食事」から(千葉寛さん撮影)

 この多彩さは、じつは麦の節約のためでもあった。ある農家で、家族一人あたり年間に確保する麦はおよそ、小麦一俵、大麦(麦飯用)一俵半。麦は貴重で《毎日の主食としてさまざまな工夫をし、野菜をたっぷり、小麦粉の量はなるべく少なくして食いのばしをするのが、主婦のしんしょ持ちがよいとされている》(同書)

 松茸(まつたけ)ご飯をめぐって「もっと、米のいっぱい入った松茸ご飯を食べたいものだ」と言い合ったという話を聞いたことがある。なんとぜいたくな、と思うが、松茸も、おやきに入れるあんも、米麦の増量材でもあり、主食と惣菜(そうざい)が混然一体のコラボ料理に工夫をこらすことが、「主婦のしんしょ持ち」だった。

 おやきに包み込まれるあんは、季節とともに変わっていく。春1番のおやきには、庭に生えてくるニラ。冬の間は、野沢菜漬けとか切り干し大根などが多かったのが、いよいよ春、雪解けとともに伸びてくるニラやノビル、菜の花など春の風味をおやきに包む。

 夏が近づくとタマネギ、そして丸ナスの季節がくる。丸ナスを輪切りして横から切れ目を入れ、その間に味噌をはさみ、練った小麦粉で包んで焼く。この丸ナスは北信地方の伝統品種で、皮がやわらかく、身がよくしまって食感がよく、味噌のしみ方も最高なのでおやきには欠かせないと、地域の人たちは言う。

 おやきを1年間つくることは、春夏秋冬の旬の味と、季節の素材を保存して生まれる味と、地域固有の品種の味を楽しみ、伝えるということでもあった。

【関連記事】〈味な提言〉(1) 岩手のそば料理 命つないだ「しとねもの」

【関連記事】〈味な提言〉(3) 高知の皿鉢料理 田植えの後楽しむ祝い膳

【関連記事】〈味な提言〉(4) 愛知の豆味噌 素材を選ばぬ包容力

【関連記事】〈味な提言〉(5) 奈良の茶がゆ 四季の産物加え豊かに

【関連記事】〈味な提言〉(6) 愛知の鶏料理 季節素材でまぜご飯

【関連記事】〈味な提言〉(7) 三重の大根料理 長時間煮込み甘み凝縮

【関連記事】〈味な提言〉(8) 北海道のじゃがいも料理 だんご、おやきなど多彩

【関連記事】〈味な提言〉(9) 京都の京野菜料理 相性抜群「出合いもん」

【関連記事】〈味な提言〉(10) 岐阜・飛騨白川のほんこさま料理 年中行事一の豪華膳

【関連記事】〈味な提言〉(11) 石川の魚の発酵食 野菜と合わせごちそうに

【関連記事】〈味な提言〉(12) 子どもも参加する地域の食 地域の中で育つ味覚

【関連記事】〈味な提言〉(13) 和食を伝え継ぐとはどういうことか ふるさとの味 100年後も覚

中日新聞広告局 病医院・薬局の求人