つなごう医療 中日メディカルサイト

私も認知症だから大丈夫 悩み分かち合う  名古屋市西区

(2017年6月18日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する
画像認知症と診断された本人や家族の相談に乗る山田真由美さん(左)=17日、名古屋市西区役所で

 国の認知症対策が急務となる中、認知症の当事者自身が、同じ症状で悩む人や家族の相談に応じる窓口「おれんじドア」が17日、名古屋市西区役所で始まった。51歳で認知症と診断された同区の山田真由美さん(57)が代表を務め、月1回の実施。厚生労働省によると、全国的に珍しい取り組みでモデルケースになりそうだ。(福本英司)

先例学び自ら提案

 「私も同じ認知症の人と出会い、元気になった。不安な人に外に出ても大丈夫だよ、と伝えたい」。青やピンクの風船を飾った区役所の一室。山田さんは市内から集まった認知症の人や家族ら8人に語り掛けた。

 その後、認知症の男女4人と机を囲み、お茶を飲みながら1時間半ほど悩みを打ち明けたり、励まし合ったり。次第に笑い声が大きくなった。認知症の家族(63)と参加した名古屋市名東区の男性(53)は「普段うまくできないおしゃべりを楽しそうにしていた。当事者同士だから話せることも多いのだろう」と話した。

 山田さんは、市の給食調理員(現在は休職中)として働いていた40代後半の頃、漢字が書きづらくなったり、計算のミスが多くなったりした。しばらくして、病院でうつ病と診断された。だが、その後の検査で、若年性アルツハイマー型認知症だと分かった。

 「それまで認知症なんて考えてもいなかったので、ふさぎ込んだ。自分の存在価値は何だろうかと思い悩んだ」。家に引きこもり涙を流す時間が多くなった。

 意識が変わったのは、若年性認知症の人や家族の交流会で同世代の女性と出会ってから。洗濯や着替えの難しさを語り合う中、本来の明るさを取り戻した。

 外出先で思い切って周囲に認知症を打ち明けると、「優しくしてくれる人が想像以上に多い」と驚いた。スーパーでは店員が袋詰めを手伝ってくれ、バス停で見知らぬ人がかばんの中から回数券を捜してくれた。

 やがて、仙台市で認知症の当事者が相談会を開いていると知った。現地を訪れて運営を学び、西区に同様の取り組みを提案。区や区の地域包括支援センター、社会福祉協議会などが後押しすることになった。

 山田さんは「私にもできることがあると思った。当事者が悩みを共有することは大事。必ず元気になれると参加者に今後も伝えていきたい」と笑顔で語った。

 次回は7月15日午後1時半から。問い合わせは西区役所福祉課=052(523)4596=へ。

「孤立緩和や自信取り戻す」

 認知症対策や支援に、当事者自身が関わることについて、専門家などは評価や課題を指摘する声がある。

 西区の「おれんじドア」について、運営に携わる日本福祉大の横山由香里准教授(健康社会学)は「当事者が他人を支える経験は自己肯定感につながり、成長を実感できる」と話す。

 同朋大の下山久之教授(社会福祉学)は「専門家が決めるサービスのあり方が変わる。孤立感の緩和、認知症に市民が触れるきっかけにもなる」と評価。その上で「当事者だけでは全てを解決できないこともある。医療や福祉の専門家、地域住民らと連携して進めることが大切だ」と語る。

 今回の先例となったのが、仙台市の市民グループで2015年に始まった相談窓口だ。中心的な立場で、若年性認知症と診断された会社員丹野智文さん(43)は「当事者の居場所ではなく、元気になるための入り口。自信を取り戻すことで、外で多くの人と交流できるようになる」と強調する。

 政府による認知症対策の国家戦略は、支える側だけでなく当事者の声を聞く取り組みを柱に据える。厚生労働省の担当者は「当事者しか分からない困り事などは多い。施策に生かし、本人や支える側の生きがいにつなげたい」と話す。

中日新聞広告局 病医院・薬局の求人