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〈味な提言〉(3) 高知の皿鉢料理 田植えの後楽しむ祝い膳

(2017年6月18日) 【中日新聞】【朝刊】【愛知】 この記事を印刷する

フリー編集者 木村信夫さん

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 南国高知の香長(かちょう)平野は、米の2期作地帯。2月には、早くも種播(ま)きをし、田起こしから早稲(わせ)の田植えと、大忙しの日々が続く。そして、息つくひまもない田植えのあとには、皿鉢(さわち)料理で祝う「さなぼり」が待っている。「日本の食生活全集」の『高知の食事』からご紹介しよう。

 《げんげ(れんげ)がなぎとられ、牛ですき返して田ごしらえが終われば4月、早稲の田植えがはじまる。苗引きは大人の仕事だが、苗を運んだり、苗束を早乙女(さおとめ)さんにうまく投げるのは子どもの役》。そして《さなぼりは田植えのだれやすけ。家族一同も加わって祝い膳を囲む》(「香長平野の食」)。

 だれやすけ=疲れ癒やしの座敷には、さばの姿ずしなどすしのいろいろ、刺し身やカツオのたたき、煮もののほか、羊羹(ようかん)なども大皿に盛られ、子どもが座る末席には、甘いぜんざいの鉢も置かれる。子どもも総動員して乗り切った農作業のあと、今度は、田・畑・海の幸と、料理の技を総動員して、大人も子どももうれしい料理の数々を楽しむ。

画像香長平野の「さなぼり」料理=「高知の食事」から(千葉寛さん撮影)

 地域では、婚礼、葬式、法事、神祭、出生祝い、節句、結納、新築祝いや、さなぼりなど農事の祭りのごちそうといえば、皿鉢料理である。大きな浅い皿いっぱいの料理から、好きなものを好きに取って食べ、飲み、歌い、語りあって交流する、じつに開放的な宴会となる。

 《料理の基本は生(刺し身)と組みもの(すし、あえもの、煮もの、羊羹、果物などを組み合わせた皿)で、どんなに小規模でもこの二つは用意する。これに、すし、そうめん、ぜんざいというふうに追加してふくらませていく》(同書)。

 季節感もうれしい。ニンニクがとれだすころ、土佐沖にカツオが回ってくる。カツオのたたきに散らした生のニンニクが口の中でまざって、こたえられない味だ。春の旬魚、ドロメは鮮度が落ちやすいので時刻にあわせて届けてもらい、冷水に放して泳がせ、すって皿鉢にのせ、刻みニンニク入りのぬた(酢味噌(みそ))をかける。

 組みものに必ず入る蒸し羊羹ときんとんは土産にもなり、家で待つ子どもが大喜びする。蒸し羊羹は、粒あんに小麦粉を練り込み、竹皮につつんで蒸しあげる。きんとんは、田芋(里芋)の白さを生かして鮮やかな桃色に染めるものと、甘みのあるからいも(サツマイモ)を緑色に染めるものの2色をつくる。

 単調気味な日常の食材が、皿鉢では違った料理に変身する。

 村には料理名人がいて、大きな祝い事のときにかり出される。近所のおなごし(女衆)も手伝いに集まってくる。腕自慢の年寄りが様子を見にきて、こつを伝授する。

 皿鉢料理づくりは地域の食の伝承の場、皆で誉(ほ)めあい味わうことで地域産物をしっかり引き継いでいく。

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