つなごう医療 中日メディカルサイト

「中部地方で完結」に意義 心不全治療の手続き短縮

(2017年6月20日) 【中日新聞】【朝刊】 この記事を印刷する

名大で初の心臓移植手術 碓氷教授に聞く 

画像心臓移植手術について話す碓氷章彦教授=名古屋市昭和区の名古屋大病院で

 名古屋大病院(名古屋市昭和区)は4月下旬、重い心不全患者に対する中部地方で初めての心臓移植手術を成功させた。長年にわたり準備を進め、4月から国内10カ所目の移植実施施設になったばかり。患者は順調に回復し6月末にも退院する予定だ。チームを率いる碓氷章彦教授=心臓外科=に経過や意義を聞いた。(稲田雅文)

 −手術の経過は。

 4月25日に茨城県内の病院で脳死と判定された40代男性から心臓の提供を受け、心臓のポンプ機能が低下する「拡張相肥大型心筋症」の50代男性に移植した。現在は、一般病棟でリハビリをしており、今後の検査で問題がなければ6月末に退院する。

 −手術は順調だったか。

 患者は(心臓近くに手術で植え込み、体外のバッテリーで駆動する)植え込み型補助人工心臓(以後人工心臓)を使用しており、3度目の手術。過去の傷の処置などで、通常より時間がかかることが予想された。

 手術はわれわれの摘出チームがドナーの心臓の状態を確認し、「移植可能」と連絡してきた後でないと始められない。心臓移植は、摘出から患者に植え込むまで4時間以内にするのが望ましい。心臓は、ヘリと航空機を使って摘出から2時間で届いたが、心臓を動かすまでの時間はぎりぎりだった。それも予想の範囲内で、大きな問題はなかった。

 −手術を終えた心境は。

 日本で心臓移植を受けた患者の5年生存率は90%超と、国際的な平均よりも高く失敗は許されない。事前に3度のシミュレーションを実施して準備した。実際の手術は、身の引き締まる思いだった。1例目が終わり、ようやくスタートラインに立てた。

 −これまでの準備は。

 名古屋大は1993年、心臓移植実施施設の公募に申請した。しかし、97年の臓器移植法施行では、心臓移植の実施施設は大阪大など3施設に限定され、名古屋大は含まれなかった。2011年に人工心臓が保険適用となり、人工心臓で経験を積むことに。13年に人工心臓の実施施設の認定を受け、同年10月に初めての手術を実施した。これまで20例の手術を重ねる。昨年末に心臓移植の実施施設に認定され、4月から実施が可能になった。

 治療には、心臓外科だけでなく、循環器内科や麻酔科、精神科など複数の診療科の連携が必要。医師だけでなく、看護師や臨床工学技士、理学療法士ら多職種によるチームを築き、昨年7月に「重症心不全治療センター」に発展させたことが、移植施設に認定される大きな力になった。

 −中部地方で心臓移植ができる意義は。

 投薬から人工心臓の装着、心臓移植まで、重症の心不全患者の治療が中部地方で完結できることが大きい。人工心臓は現在、移植を待つ間のつなぎとして、心臓移植が必要と判断された人しか装着できない。以前は心臓移植ができる大阪大や東京大などに患者を送り、生活の拠点を移してもらう必要があった。名古屋大で人工心臓手術が可能になった13年以降、患者をこの地域で管理できるようになったため、復職など社会復帰が可能になった。

 さらに、移植実施施設になったことで、手術の可否の判断を大阪大など別の大学病院で行う必要はなくなり、人工心臓を装着する手続きの期間が2カ月から1カ月へと短縮できた。緊急度が高い人には、審査を後回しにすることも可能になった。速やかに装着できることは大切で、遅れると別の臓器の状態が悪化し、心臓移植の対象から外れる可能性がある。

 −課題は。

 今後、中部地方で人工心臓の装着を希望する患者が増えると予想される。連絡網づくりなど、患者紹介の仕組みの確立を進めたい。

 現在、全国で年に160〜170人が心臓移植が必要と判断されている。10年の臓器移植法改正で増えたとはいえ、16年の心臓移植は52例で、待機日数は約1000日。この治療が順調に回っていくためには、年間100例のドナーが必要だ。脳死での臓器提供について啓発していく必要がある。

中日新聞広告局 病医院・薬局の求人