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〈生活部記者の両親ダブル介護〉(19) 著書出版

(2017年6月21日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する

お母さんにほめられた

画像「この背表紙が固いでええね」と母が言ったから、6月某日は「わけあり記念日」!

 久しぶりの感覚だ。車のハンドルを握りながら思い出す。

 中学3年の時、夏休みの工作で金賞を取った。基板から自作したヘッドホン型ラジオ。早く母に見せたい。ほめられたい。はんだごてを落としてカーペットを焦がしたことも、金賞に紛らせてうやむやにしよう。いろいろ考えながら、梨畑の間を少年は自転車で疾駆した。ギアは6段、立ちこぎだ。

 安全運転で病院に着く。着替えを出し入れする気配に母は目を開く。「耕喜か…」「そうです。その耕喜が今度、本を出しまして」。リュックから1冊取り出す。「『わけあり記者』っていう本です。ここに『三浦耕喜』と書いたるでしょう」。手に取ってしばし眺める母。「これは本かね」「そうです。これは本です」。英語の教科書のようなやりとりを繰り返し、息子の耕喜が本を書いたらしいと理解してもらう。母は震える指で本を開く。

 「今日も新聞に載っとったね」と電話をくれていた昔を思い出す。「難しくて分からんかったけど、大事なことが書いてあったね」。明らかな矛盾だが、ほめているのは分かる。実家に帰ると「耕喜の記事、とってあるの」と小箱を見せられた。それらは私の記事だったり、私の記事でなかったりしたが、喜んでいることは確かだ。認知症で新聞が読めなくなっても、入所する最後まで購読を打ち切ろうとはしなかった。

 あらためて表紙を眺める母。「どう?」。そう問うと、母は背表紙をつまみながら答えた。「ここが固いでええね」。何か違うが、まあいいか。「ええね」と母にほめられた。(三浦耕喜)

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