つなごう医療 中日メディカルサイト

再発防止へ心理療法 行動や考え方の癖見直す うつ病患者 職場復帰支援

(2017年6月27日) 【中日新聞】【朝刊】 この記事を印刷する
画像

 記者が医療の現場をルポする「ルポルタージュ’17」。今回は、うつ病などの患者の職場復帰を支援する「リワーク・プログラム」に焦点を当てる。復職の前に施設に通って生活リズムを整え、体力や気力を回復させるリハビリだ。心理療法を取り入れているのが大きな特徴で、患者の行動や考え方のパターンを見直し、ストレスに対処できるようにして再発や再休職を防ぐことを目的にしている。全国の施設で一定の成果が出ている。(小中寿美)

 JR名古屋駅前。40階建ての名古屋ルーセントタワー(名古屋市西区)にビジネスマンたちが吸い込まれるように入っていく。3階の医療モールには、約50人の患者が通うルーセントリワークセンターがある。午前9時。年齢も服装もさまざまな男女が次々と入り、明るく広い室内に並んだ長いすに着席した。

 メーカーに勤務する50代の男性Aさんは、自宅から40分かけて通う。ロッカーに荷物を入れると最前列に座り、プリントの課題に取り組み始めた。「難しいな、これ」。数学的なパズル問題。通い始めた半年前と比べると、難易度はずいぶん上がっている。

 「オフィスワーク」と呼ばれる時間。計算や読書、パソコン入力などを症状に合わせて行う。窓の外を眺めている人や退室して戻らない人、眠っている人も。「通い始めて間もないころは注意力が散漫。本を読んでも頭に入らない」とスタッフの一人で作業療法士の桜井房枝さん(36)は話す。

 プログラムの対象は、うつ病や双極性障害(そううつ病)にかかって休職している患者。症状が落ち着き、医師が許可すれば受けられる。「最初は座っているだけでも大変」と桜井さん。しかし、定時に通い、拘束された時間を過ごすことで体力がつき、復職への自信にもつながるという。

 「この内容なら1〜2カ月で終わる」と思ったAさんだったが、そうはいかなかった。

 休職は3回目。最初は海外勤務だった10年ほど前、2回目は新規プロジェクトを任された時に発症し、ともに3カ月ほど休んだ。復職した後もプロジェクトは思うように進まず、眠れなくなり再び休職した。

 「復職しても信頼は取り戻せないんじゃないか」。3回目の休職を決めた時のことを思うと、涙が込み上げる。かかりつけ医に紹介されて現在の主治医にかかり、リワークへの参加を勧められた。復帰したい一心で昨秋から通い始めた。

 患者は睡眠や食事など一日の行動や体調、気分の変化などをリズム表に記入。桜井さんらスタッフがきめ細かくチェックし、面談も行って症状を把握する。

 定期的に診察を受ける中で、Aさんはうつ状態に加え、軽いそう状態が起きる「双極2(ローマ数字の2)型障害」と診断された。これまで本人も過去に診察した医師も、気分が高揚する時があることには気付いていなかった。

 「山高ければ谷深し、です」とAさん。軽いそう状態でも、波が高ければその分、うつ状態は重くなる。この日午後からは、過去の経験を図で表す「ライフチャート」と呼ばれる個別活動に参加。過去を振り返ると、Aさんには気分に大きな波があった。

 これまでの心理学習でも、自分の病気についてさまざまな気付きがあった。「仕事を頑張ろう、やってやろうと思ってやってきた」とAさん。「それが自分にストレスをかけていた」

 再発や悪化を防ぐには、そう状態に入りかけた時の兆候を知ることや、ストレスへの対処法を学ぶことが有効といわれている。Aさんの場合、やるべきことをひたすら書き出したり、多弁になったりすることが兆候だった。

 6人が置物などの対象をそれぞれ自分の言葉で表現する集団活動。Aさんは、コミュニケーションの難しさや、見方は人それぞれということを学ぶこともできた。睡眠も含めて生活リズムは安定し、復帰の時期は近づいている。

 ほかの患者とともに室内を黙々と清掃し、午後3時、この日のスケジュールは終わった。「前は退屈で長く感じたけど、今はあっという間」とAさん。今日は何をしようかと考えながら、次の行き先の図書館へ向かった。

復職後も診察を継続

 ルーセントリワークセンターではこれまで953人が通院し、7割の673人が復職した。ただ、働き続けるには自己管理が必要で、復職後も診察やカウンセリングなどが行われている。

 愛知県内に住む会社員男性Bさん(40代)は半年間通った後に復職した。今はセンターを運営する心療科「ルーセントジェイズクリニック」を定期的に訪れ、主治医の診察を受けている。

 休職のきっかけは関連会社への出向だった。職場の雰囲気に溶け込めず、できる仕事もないと感じた。初経験の満員電車での通勤もストレスになった。

 リワークで気付いたのは、白黒つけないと気が済まない自らの性格。思い通りにいかず怒りが湧くことも。心理療法を通して、他人の考えを「こういう人もいる」と受け止められるようになった。「僕の中で初めてグレーができた。『まあいっか』が言えるようになったんです」

 ただ「人間関係や仕事の進め方など、休職前に悩んでいた問題は復職後も起こる」と関連施設の臨床心理士の田渕順さん(35)。そんな時は、考え方や行動が休職前と同じパターンになっていることを指摘し、リワークで身に付けた新しい考え方を確認する。「繰り返し話す中で見直しを続け、問題に直面したときに乗り越えられるようになってくれれば」と願う。

退職・再休職者対応が課題に

 うつ病と双極性障害の患者数は、2014年の国の調査で112万人。1999年の2.5倍と大幅に増えている。うつ病などで仕事を休む会社員が増え、再発や再休職もみられるようになった。

 復職して働き続けるには薬の服用だけでは難しく、注目が集まるのがリワーク・プログラム。作業療法やデイケアの枠組みを活用する形で全国に広まった。保険が適用される。

 プログラムのある医療機関がつくる「うつ病リワーク研究会」(事務局東京)が2010〜13年に13施設で実施した調査では、復職して1年後に働いている人は86%、2年後に働いている人は71%だった。

 研究会の五十嵐良雄代表世話人(67)は「結果は出ている」とした上で「退職した人、再休職した人を今後どうするか。通って実は発達障害だったと分かる人もいる。それぞれに適したプログラムや就労支援が必要だ」と指摘した。

中日新聞広告局 病医院・薬局の求人