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〈味な提言〉(4) 愛知の豆味噌 素材を選ばぬ包容力

(2017年6月25日) 【中日新聞】【朝刊】【愛知】 この記事を印刷する

フリー編集者 木村信夫さん

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 米や麦などの生産や風土を反映して、全国各地にいろいろな味噌(みそ)があり、それが地域の味覚のベースになってきた。愛知といえば豆味噌、そして味噌を語らずに愛知の食を語ることはできない。「日本の食生活全集」『聞き書(がき) 愛知の食事』にみてみよう。

 秋のとり入れ、麦播(ま)きが終わるころ、碧海台地の安城にも伊吹おろしの冷たい風が吹くようになり、寒に入ると、尾張・三河の平野でも、奥三河の山間地でも、家ごとに味噌づくりがはじまる。

 《毎年四斗樽(だる)に仕込むと、一年中安心して食べられる。材料は大豆と塩だけで、味噌特有の香りと味が親から子へと伝承される。味噌つくりは一家の大仕事である》(「西三河 安城の食」から)

画像味噌玉作りの様子=安城市で(千葉寛さん撮影)

 味噌づくりの日、主婦はまだ暗いうちから起きだして、前夜から水に浸しておいた大豆をくどにかけ、勢いよく火をくべる。一家の者は薪(まき)のはぜる音で目をさます。この日ばかりは子どもたちも遊びには行かず、一家総出の大仕事だ。

 煮あがった大豆を臼でつき、直径2、3寸の玉に丸め、まん中に穴をあけ、わらを通して、風通しのよい倉の中や、土間の上につるす。この味噌玉は、2カ月もたつとかちかちに固まる。こうじかびだけでなく、赤かびや青かび、おまけにほこりまでついて、まっ黒けになる。

 このまっ黒になった豆こうじのかたまりをよく洗い、臼でついたり、げんのうで細かくくだいて、塩、水と合わせて仕込む。こうして1、2年寝かせて熟成させたものが、八丁味噌、三州味噌、三河赤味噌などと呼ばれる愛知の豆味噌だ。

 この豆味噌、煮こめば煮こむほどうまくなる。この特色を生かした、愛知のもっとも一般的な郷土料理が「煮味噌」である。

 三河では、寒い冬には熱い煮味噌を毎日のように食べる。サトイモ、大根、こんにゃく、にんじん、油揚げ、ときにはかしわなど、あるものを何でも入れて、ひたひたのだし汁と味噌でぐつぐつと煮こむ。季節の素材を生かし、飽きがこないように工夫する。だしは、ハゼを焼いて串にさして乾燥させたものを使うとおいしいが、ふだんはけずり粉(むろあじ、カツオけずり節)や油揚げを使うことが多い。

 愛知の豆味噌は“食べる味噌”でもある。

 《味噌を手で丸め、おき火で焼いて焦げ目をつけると香ばしく、熱いごはんにのせると、ほかにお菜がなくても食べこむくらいいい味である》(「愛知山間 奥三河の食」から)

 この食べる味噌の極致ともいうべきものに「いなまんじゅう」がある。まんじゅうといっても、お菓子ではなく、いな(ボラの幼魚)の内臓をえらぶたのところから抜き、中に豆味噌を詰め込み、串にさしてこんがりと焼きあげる。いなを皮にあん(味噌)を楽しむ。そんな食べる味噌の工夫と、どんな素材も包み込む調味料としての包容力、そこに味噌の原型といわれる愛知の豆味噌が今日まで受け継がれてきた秘密があるのだろう。

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