つなごう医療 中日メディカルサイト

患者の思い尊重し世話 株式会社「ななみ」 冨士恵美子さん

医人伝

(2017年7月4日) 【中日新聞】【朝刊】 この記事を印刷する

株式会社「ななみ」(名古屋市熱田区) 代表・訪問看護師 冨士恵美子さん(60)

画像ALSの患者に声をかける冨士恵美子さん=名古屋市北区で

 「またナゴヤドームに行こうね」

 優しく声をかけると、ベッドで寝たきりの筋萎縮性側索硬化症(ALS)の猪原雄二さん(48)は、笑みを浮かべ、まばたきをして答えた。壁に掛かるのは、プロ野球中日ドラゴンズのひいき選手のユニホーム。体は動かなくても、話せなくても、目と耳で応援できる。

 名古屋市北区の「難病シェアハウスななみの家」では、主にALSの6人が共同生活。訪問看護師やヘルパー、理学療法士らスタッフが交代で24時間、世話している。

 訪問看護をしていたALSの人が「このまま手も動かなくなったら一人で暮らせない。施設に入るお金もないから、ここで死ぬしかない」と嘆くのを聞き、シェアハウスを考えた。

 病院勤務の看護師や看護学校の教員などを経て、8年前に株式会社「ななみ」(名古屋市熱田区)を立ち上げた。「なんでも 仲良く みんなで」の頭文字で「ななみ」。訪問看護、訪問介護のステーションが主事業だが、困った人がいると、採算を度外視しても力になりたい性分だ。キャンナス(全国訪問ボランティアナースの会)名古屋代表、日本ALS協会愛知県支部の事務局など、社会活動の肩書は十指を超える。

 高校までを過ごした宮崎県都城市の市営住宅の自宅では、近所の子どもたちと食事や寝泊まりを共にしていた。母・通子さん(85)が貧しい人の支援に熱心だったからだ。そんな母譲りのボランティア精神に磨きをかけたのは、愛知県東海市の在宅診療医だった故・伊藤光保さんとの出会い。2015年にがんで亡くなる直前まで訪問診療を続け、高齢者や障害者を支援する仕組みづくりに尽力した人だった。常に患者の思いを尊重する姿勢に共感した。

 病院の看護師だったころ、余命わずかな高齢女性の入院患者が「梅干し入りのおにぎりを食べたい」と望んでいた。医師は「塩分が多いからダメ」と言ったが、こっそり差し入れたら、一口食べて「ああ、おいしい。もう死んでもいい」と感謝された。

 「死を前に、食べたいものを我慢することに意味があるのか。看護って何だろう」と自問し、伊藤さんの影響で選んだ道が訪問看護だった。

 看護師として働き続けて40年。育てた娘3人も看護師となり、母の仕事を手伝っている。(編集委員・安藤明夫)

同じ連載記事
子どもの遺伝病を研究 浜松医科大 緒方勤さん (2017年11月21日)
記者から奮起、医の道へ 一宮むすび心療内科 小出将則さん (2017年11月14日)
満足いく生涯を手助け 丹生川診療所 土川権三郎さん (2017年11月7日)
ぜんそくの重症化防ぐ てらだアレルギーこどもクリニック 寺田明彦さん (2017年10月31日)
新療法で花粉症根絶へ ゆたクリニック 湯田厚司さん  (2017年10月24日)
同じジャンルの最新ニュース
◇じんぞう病教室ほか (2017年11月21日)
〈中日病院だより〉(74) 禁煙したい?(1) 体内をめぐる有害物質 (2017年11月21日)
自己負担軽減制度 患者に教えて (2017年11月21日)
受動喫煙防止策新案 広さ緩和に賛否 (2017年11月20日)
駅前に市民病院建設 賛否を問う住民投票 (2017年11月20日)

中日新聞広告局 病医院・薬局の求人