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膵臓がん手術「腸間膜到達法」 転移防ぎ生存率向上

(2017年8月8日) 【中日新聞】【朝刊】 この記事を印刷する

 がんの中でも治療が難しいとされる膵臓(すいぞう)がん。根治を目指すなら早期に発見し、手術でがんを摘出するしかない。名古屋セントラル病院(名古屋市中村区)の中尾昭公(あきまさ)院長(69)=写真=は、かつては「手術不可能」と判断された症例でも、安全にがんを取り除く新たな術式を開発。最近の研究で、この術式が生存率の向上につながっていることが確認された。名古屋大病院など13の医療機関が参加し、従来の術式で手術した場合に比べた優位性を本格的に調べる試験が始まる。 (稲田雅文)

名大病院など 従来の術式と比較へ

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 「がんの手術では、近くの血管を遮断する前にがんに触ってしまうと、がん細胞が血流に乗って他の臓器に転移する可能性が高まる。しかし、体の奥深くにある膵臓がんでは、従来は膵臓を握りながらがんを切除する術式しかなかった。私の考えた術式は、この問題を克服した」。中尾院長はこう説明する。

 膵臓は、胃や脾臓(ひぞう)などさまざまな臓器や血管に囲まれ、背中に近い側に位置する。膵臓がんのうち多くが、十二指腸や胆管、門脈などが集中する「膵頭部」にできる。このタイプの場合、胃の一部や十二指腸など周囲の器官も一緒に摘出する「膵頭十二指腸切除術」が実施される。

 よく使われる従来の術式では、胃と十二指腸を切り離した後、膵臓を手で引っ張り出して手術を進めるため、がん細胞ががんから流出し血流に乗る危険性が高かった。

 中尾院長が名古屋大病院に在籍していた1990年代に開発した「腸間膜到達法」では、小腸を支えている腸間膜を切開し、別の角度から膵臓に近づく。膵臓に出入りする血管を先に縛って遮断し、リンパ節の切除も進めながら近づき、最後にがんの周囲を切り離した上で摘出する。

 「がん細胞はリンパ節に転移しやすい。がんから遠い部分のリンパ節から切除していくこの方法だと、がんを取り切る可能性が高く、出血を少なくできるメリットもある」と中尾院長。ただ、腸間膜内を走る血管を切らないように腸間膜を切開するのは難しく、取り入れている医療機関は一部にとどまる。

膵臓の構造と位置

 中尾院長に指導を受けた和歌山県立医科大(和歌山市)の山上裕機教授が最近まとめた研究では、一定の条件の膵臓で、この術式の方が5年生存率が高いとする結果が出た。

 山上教授の研究チームが2000〜15年に膵頭十二指腸切除術を実施した237人のうち、72人で腸間膜到達法を選択。従来の術式と比べ、切除可能と判断した膵臓がんの場合は、入院日数の平均が1週間短くなった上、5年生存率は従来の術式より30%ほど高い約50%だった。中尾院長は「患者のために良いと信じて開発した術式の優位性を示すデータが出され、非常に喜ばしい」と話す。

 かつて「見つかったら死を意味する」といわれた膵臓がん。駆け出しだったころ最初に直面した壁が、膵臓がんが門脈まで広がっているケースだった。門脈は腸から毎分1リットルもの血液を肝臓に送り出しており、大出血を起こす危険性があるため、従来は手術が不可能だとされていた。

 しかし「技術力で安全に摘出できるに違いない」と研究を重ね、特殊なチューブで門脈の血流を迂回(うかい)させる「門脈カテーテルバイパス法」を1981年に開発した。今では肝臓がんの摘出や肝臓移植など、他の手術にも応用されている。

 名古屋大の消化器外科教授を務めた時代からメスを握り続け、膵臓がんの執刀数は世界トップレベルの千例を超える。

 腸間膜到達法の優位性を検証しようと、名古屋大や富山大など国内13の医療機関は、従来の術式との成績を比較する試験を近く始める。中尾院長は「以前から優位性を信じて手術をしてきたが、両方の術式を比べることはできなかった。実際に比較試験をやって、優位性が証明されることが、今後、膵臓がん外科治療の発展につながると期待している」と話す。

 膵臓がん 男女合わせた死亡数は、肺、大腸、胃に次ぎ4番目に多く、増加傾向にある。毎年3万5000人が新たに診断されるのに対し、3万2000人が亡くなっている。早期発見が難しく、手術ができるのは2〜3割とされる。膵臓は胃の後ろにある長さ約20センチの細長い臓器で、食物の消化を助ける消化酵素や血糖値を調整するホルモンのインスリンを分泌する。

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