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〈味な提言〉(5) 奈良の茶がゆ 四季の産物加え豊かに

(2017年8月6日) 【中日新聞】【朝刊】【愛知】 この記事を印刷する

フリー編集者 木村信夫さん

 国のまほろば、大和の食といえば、茶がゆ。奈良県のほとんどの地域で、かつては朝飯と夕飯は茶がゆだった。大正から昭和初めの食生活を聞き書きで記録した「日本の食生活全集」の『奈良の食事』に見てみよう。

 《おかちゃん(主婦)は、朝一番に起きてかまどに火を燃やし、茶がゆ用の湯をわかす。湯がわくと木綿のちゃん袋に番茶を入れ、色よく炊き出す。一升五合ほどの湯に三合の米が入る。ちゃん袋を引き上げて洗った米を入れ、粘りを出さないようにあっさりと炊く。最後に塩を入れる》(「奈良盆地の食」から)

 昔から“大和の茶がゆ、京の白かゆ、河内のどろ食い”といわれ、奈良の茶がゆは、さらりとして粘りのないのが特徴だ。それを日に2回も食べるのは、貴重な米の節約のためといわれ、また、朝早く農作業に出るのにさらっとかきこめるからという説、あるいは信仰心篤(あつ)い人びとが僧侶の食に倣ったとする説もある。

 それにしても、顔が映るような、ともいわれる茶がゆである。これを食べて、きつい労働の日々を乗り切るために、かゆにいろいろなものを加えてきた。

 その一つが「かきもち」「きりこ」。《焼いたかきもち一、二枚を茶わんに入れて、上から熱い茶がゆをかけて食べる。焼きたてのかきもちにかけたときのじゅーんという音は格別である。きりこは炒(い)って、同様にして食べる》(同上)

 かきもちは、つきたての餅を厚めに延ばし、かんなと包丁で小さな長方形に切り、わらで編んでつるして干した長期保存食。餅をつくときには、干し桜えび、青のり、ごま、砂糖、こいも(里芋)の摺(す)り下ろし、つるし柿など山海の味覚を加える。焼いて熱いお茶をかけたとき、いろいろな風味と香ばしさが楽しめる。

 きりこは、かきもちの切れ端などをさいころ状に切って乾かしたもの。里芋入りのきりこは、焼くとぷうーっと膨らむのがうれしい。缶で保存し、子どもたちのおやつとなる。

 かきもち・きりこは正月明け、寒の水でつき、寒の空気にあてて乾かすことによって、長期の保存ができる。春からの農繁期に、風味よく腹持ちもよい茶がゆを食べられるのは、冬の低温・乾燥の恩恵である。さらに四季折々にとれる地域産物が茶がゆをバラエティー豊かにする。

 春の朝はあも(餅)入り、夕はよもぎだんご入り、夏の朝はだんごぼり(小麦粉だんご)入り、夕はソラマメ入り、秋の朝はタダイモ(里芋)入り、夕はサツマイモ入り。ほかに「小米だんご」入りや「はったい粉」をかけた茶がゆも、よくつくる。

 奈良盆地は、明治から大正には米の単収日本一を何年も続けた稲作の先進地である。それを支えたのが、先人が苦労して築いた多数のため池。ため池用水節約のために田畑輪換農法が行われ、水田では米麦二毛作や野菜の輪作・間作、畑では芋類、豆類、根菜、果菜、葉菜とあらゆる野菜をつくり、茶や柿、桃なども植える。

 そうした土地の高度利用が茶がゆなど米料理の楽しみを膨らませたのである。

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