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末期治療の選択 話し合う 延命方法 書面に意思

(2017年8月15日) 【中日新聞】【朝刊】 この記事を印刷する

患者と家族、医師ら事前確認

 終末期を迎えた患者が望む医療を受けられるよう、意思決定ができなくなる前に医療者と話し合う「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」が、各地の医療機関で広がっている。人生の最終段階で本人の意思が分からないと、延命治療をすべきかどうか家族や医療者が悩むことが多いためだ。患者との対話を重視し、本人が納得する最期を迎えられるように支援する。 (出口有紀)

画像透析中の貝谷隆司さん(右)に、事前指示書の内容に変わりはないかを確認する山田洋子さん(左)と主治医の坂洋祐さん=愛知県春日井市の春日井市民病院で

 「気持ちは変わらない?」。7月上旬、春日井市民病院(愛知県春日井市)で人工透析のため入院していた同市の貝谷隆司さん(78)は、看護師の山田洋子さん(54)の問いに、うなずいた。貝谷さんは6月に持病の腎不全が悪化し、人工透析を開始した。

 同病院では、特に高齢者が透析を始める際、終末期に望む医療行為を確認する。貝谷さんは、次男裕之さん(46)と相談し、意思を書面にしておく事前指示書に心肺蘇生や胃ろうなどを希望しないと記載。重度の脳障害が起こった時には、透析は続けないとした。

 その後も山田さんや主治医は、週3回の透析時に、思いの変化を尋ねた。「死ぬ時の話ばっかりでごめんね」と話す山田さんに、貝谷さんは「嫌じゃないよ。それだけ自分のことを思ってくれているってこと」と笑っていた。貝谷さんは症状が落ち着いたため、7月下旬に市外の別の病院に転院。やりとりの記録も転院先に移された。裕之さんは「(春日井市民病院の)主治医の勧めがあったからこそ、話しにくいことを父と確認できた。記録があるので、転院先で万が一、父の意識がなくなっても意思を生かせる」と話す。

 ACPは、終末期に受ける医療や介護をあらかじめ計画しておくという意味で、欧米で始まった考え方。国内では国立長寿医療研究センター(愛知県大府市)を中心に、各地の病院が導入しつつある。

 春日井市民病院では、がん相談支援センター部長の会津恵司医師(45)らが「患者の死が近いと分かっていても、“元気になろう”と励まし続けるしかない今の医療に疑問を感じた」ため、2015年度に厚生労働省のモデル事業に応募し、病院全体の取り組みとしてACPを導入した。

 主治医が必要と判断した場合などに、研修を受けた医師や看護師らが、本人や家族に、病状や余命についてどれだけ理解しているかを確認するほか、これまでの人生や死への考え方などを聞く。約30分の話し合いを3回ほど経て方針が決まる。方針はいつでも変更可能だ。

 ACPによって、患者と家族の気持ちのずれが埋まる場合もある。

 胃がんで入退院を繰り返す70代の男性患者は無理な治療はせず、自宅で過ごすことを望んでいたが、妻が反対していた。相談を受けた看護師の森本優子さん(53)は「奥さんは家でつらい状態の夫を見ながら、自分だけが普通の暮らしをすることに罪悪感があったようです」と話す。

 本人と家族、主治医を交えた話し合いの場で、痛みを抑えながら自宅で生活し、状態が悪くなったら最期は病院で迎えると決めた。男性は眠るように逝った母を見て安心した経験から「自分の時にも家族にそう思ってもらいたい」と無理な延命はしない最小限の医療を望んでいた。森本さんは「ACPで男性や妻の本当の気持ちが理解できた」と実感する。

 13年の厚労省の意識調査によると、自分の死が近い場合に受けたい、もしくは受けたくない医療について、家族間で全く話したことがない人の割合は55%に上る。会津さんは「家族からは切り出しにくいからこそ、医療職からの働き掛けが重要。始めてみると、患者もそういう話をしたかったのだと思った」と話す。

 ただ、診療報酬に反映されるわけではなく、日常の業務をこなしながら相談体制を整えることは簡単ではない。同病院では、医療職の1割程度に当たる58人が相談員として活動しているが、一部の患者にしか実施できていない。会津さんは「国の制度としてまだ十分に整備されていないが、やらざるを得ない。患者と一緒に考えることでいい最期にしたいとの思いにつながり、医療職の意識も変わる」と話す。

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