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〈味な提言〉(7) 三重の大根料理 長時間煮込み甘み凝縮

(2017年8月20日) 【中日新聞】【朝刊】【愛知】 この記事を印刷する

フリー編集者 木村信夫さん

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 練馬、亀戸、方領、宮重…一昔前まで、大根にはたくさんの地方品種があった。名前が付いている品種だけでも100種以上、他に地ダイコンといわれる品種・系統が無数にあり、その利用法も大変多彩だ。私も編集に携わった「日本の食生活全集 聞き書 三重の食事」(農文協刊)の「伊勢平野の食」に見てみよう。

 「伊勢に住めばもの案じするな」といわれるほど、伊勢地方では平野から、伊勢湾から豊富な食材が手に入る。豊かな米は、味ごはん、もち、すしになり、特産の大根でつくる「伊勢たくあん」が味を調える。

 伊勢平野の肥えた土地は大根をよく育て、冬の空っ風は乾燥に最適であり、明治時代から伊勢たくあんの産地として名声を博した。原料の御薗大根は、伊勢生まれのきめの細かい白首大根。師走のころ、1週間か2週間天日に干して、大根で「の」の字が書けるほどしなやかになってから、4斗だるに塩と米ぬかを混ぜて漬けこむ。

 たくあん(こうこ)だけでなく、大根をよく食べる。間引きした小さい大根葉はひたしや漬物に。大きくなれば、太いもの、細いもの、またになったもの、それぞれの部位を生かして料理する。

画像こうこ(右上)と大根炊き(右下)=千葉寛さん撮影

 大根炊きは、鈴鹿地方の代表的な郷土料理だ。

 「5升なべに大きな大根を4、5本、粗切りにして入れる。燃料の少ないところでは切り方が小さく、近くに里山があり燃料に不自由しないところでは、3寸くらいの輪切りにする。だしに煮干し一つかみと揚げ(油揚げ)を2、3枚、小口から刻んで入れ、たっぷり水を注ぎ入れ、やわらかく水炊きし、途中しょうゆを適宜に回し入れ、長時間煮こむ。大根が茶色くあめ色になり、口に入れるととろけるほどじっくりとやわらかく煮る」

 「大根炊きは、『山の神』や講など人寄りや行事のときにもつくられ、ただいも、ごぼう、にんじんなどの煮ものとともに出される。何度も火入れをすると、大根は甘みを増し、やわらかくおいしくなる」(同上より)。

 太くて短い大根や、またになった大根は切り干し大根にする。切り干し大根は生のまま干す方法と、蒸してから干すものと2種類あり、蒸した方が色は黄色くなるが、甘くておいしいし、生よりかびが生えにくい。

 細い大根を丸のまま干した干し大根のかす汁。煮干しと一緒になべに入れて水を加え、一煮たちさせ、そのまま一晩置く。こうすると干し大根のうま味が汁に出て、大根自身も大きくふくらむ。翌朝、水を補ってみそと板の酒かすをちぎって入れて煮る。ふうふういいながらすすると、体が温まる。

 夏から秋にかけて「あほ炊き」をつくる。酸っぱくなったり味が変わったこうこを何度も水をかえて塩抜きし、しょうゆ味で煮て、白ごま、七味とうがらしで味を付け直す。「一度漬けたものをまた煮るあほがいる」ということから「あほ炊き」と名が付けられたという。

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