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〈生活部記者の両親ダブル介護〉(23) 隠れて小宴

(2017年8月16日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する

酒好きの本音ポロリ

画像好物のどら焼きを母に分け与える父。酒を飲んで暴れたころを思えば、ぐっと穏やかになりました

 高校で早弁をした時のような緊張感が走る。施設のリビングに父(80)を見つける。普段はここでどら焼きなどを渡すが、さりげなく自室へ車いすを押す。

 大部屋を板壁で仕切った半個室。周りを見渡しながら、そっと大部屋のドアを閉める。父が注視する中、コンビニ袋から取り出したるは、日本酒の小瓶。父の表情がみるみる緩む。

 栄養管理された食事により、父の健康状態は家にいたころよりも良い。一方、酒は飲めなくなった。嚥下(えんげ)の支障や酔ってトラブルとなる可能性から、施設ではお勧めできないのだ。とはいえ、私も父の血を継いだ身なので分かる。たまには父も飲みたかろう。サバの缶詰をさかなに、ささやかな宴(うたげ)が始まった。

 今はすっかりお世話になっているが、介護保険を使い始めるまでが一苦労だった。効果や費用も不安だったが、一番の壁は家族以外の者を家に出入りさせることだ。「地域包括支援センター」という相談窓口は把握した。だが、父の説得に骨が折れた。電話するたびに「おまえらがこの家に入れ」と父。ならば私の仕事はどうなる。「それができないから言ってます」と私。父は長男の嫁たる私の妻に頼る気満々だった。

 当時を思いつつ、父の杯に酒をつぎ足す。突如、声がする。「お酒飲んでます?」。しまった、スタッフに見つかった。向かいのカーテンの裏でお仕事中とは。宴は中止、ひと通り注意を親子で拝聴する。「でも、お酒好きなんですね」とほほ笑むスタッフ。父も何やらごにょごにょと答えて笑う。聞き直すとこういう趣旨だった。「好きな酒でむせて死ぬならそれでいい」(三浦耕喜)

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