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チーム医療で口腔ケアを

(2017年8月29日) 【中日新聞】【朝刊】 この記事を印刷する

抗がん剤による口内炎や味覚異常 学会 充実へ専門資格認定も

画像「がんのチーム医療には、歯科医師、歯科衛生士が不可欠」と訴える夏目長門教授=名古屋市千種区の愛知学院大歯学部で

 抗がん剤治療をするがん患者は、口内炎や味覚異常など口の中に副作用が現れることが多い。症状によっては治療に影響することもあるが、歯科医師や歯科衛生士が常勤する病院は少なく、医療の質に格差があるのが現状だ。日本口腔(こうくう)ケア学会は、独自の認定制度を設けるなどして、がん治療における口腔ケアの重要性を訴える一方、専門的な医療従事者や施設の拡大に努めている。(編集委員・安藤明夫)

 愛知県の公務員男性(59)は、6年前に白血病を発症し、名古屋市瑞穂区の名古屋市立大病院で骨髄移植手術を受けた。

 手術から1週間後に軽い口内炎の症状が出た。移植の前処置で投与された抗がん剤の副作用だった。血液内科から連絡を受けた歯科医師が診察し、患部を保護するマウスピースを作製。男性は痛みを感じずに飲食できるようになり、順調に回復した。

 男性は手術前に院内の歯科口腔外科で、毎食後の歯磨きと消毒薬によるうがいを指導されていた。退院後にかかりつけの歯科に行くと「抗がん剤を大量投与された患者さんで、こんなに歯と歯茎がきれいな人は初めて」と驚かれたという。元気になった男性は、今もマウスピースをお守りにしている。

 日本口腔ケア学会の副理事長を務める夏目長門(ながと)・愛知学院大歯学部教授(60)によれば、抗がん剤を使うがん患者の口腔ケアは▽事前に歯や歯茎の状態を点検し、必要なら歯科治療を先に済ませる▽歯磨き、うがいなどのセルフケアを指導する▽副作用の症状が出れば、免疫状態などを主治医と相談しながら、歯科治療を進める−などが基本。名市大病院は手順通りのチーム医療を進めた形だが、それができる病院は多くはない。「全国に約7千ある病院の中で、歯科があるのは23%。“無歯科医村”といわれる状況です」と夏目教授は嘆く。

 抗がん剤は、正常な細胞にもダメージを与えるため、患者の約40%に口内炎が発症する。強い痛みを伴い、飲食が難しくなる場合がある。免疫力の低下で歯周炎などが悪化し、ウイルスが全身に広がって治療を中断せざるをえなくなることもある。

 抗がん剤の中には、唾液の分泌を低下させるものもあり、口の中が乾燥して食べ物をのみ込むことが難しくなるケースも。味覚障害が起きることも多い。放射線治療も照射場所によっては、口腔内に大きな影響を与える。「口腔ケアは看護師が担当するが、がんの症状に応じて専門的な対応をしていくためには、歯科医師や歯科衛生士が不可欠。がん診療連携拠点病院(全国400カ所)には配置を義務付けてほしい」と、夏目教授は訴える。

 また、舌がん、喉頭がんなど口腔領域のがんは全国で年間7千人以上が亡くなっており、死亡率は米国の約2倍。口腔ケアの意識を高め、早期発見、治療につなげることで死亡率を改善できるという。

 同学会は2006年、口腔ケアの専門的な知識や技術がある看護師ら医療従事者に資格を与える認定資格制度を設け、13年には施設を対象にした制度も始めた。試験などを通じて専門性の高い医療従事者や施設を増やし、医師や看護師らが連携して治療に当たるチーム医療で、口腔ケアの充実を図ることが目的だ。

 ことし2月には、これまでの研究をもとに「治療を支えるがん患者の口腔ケア」(医学書院)を出版した。また、5月9日を「口腔ケアの日」と定め、一般向けの啓発にも努めている。

 がん患者だけではなく、口腔ケアは、要介護の高齢者にとっても、生活の質を左右する問題。糖尿病の患者は歯周病が悪化しやすく、それが全身に影響を及ぼして糖尿病が重症化する「負のスパイラル」が起きることが多いなど、さまざまな疾患で口腔ケアの重要性が指摘されている。

 夏目教授は「かつては、子どもの虫歯予防が歯科の大きなテーマだったが、今は12歳児の虫歯が平均1本と、大幅に改善されてきた。長寿社会の中で、大人の口腔内の問題にもっと注目してほしい」と話す。

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