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〈生きる支える 心あわせて〉 認知症サポーター養成の講師に

(2017年8月31日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する

当事者の声から学んで

画像講座を修了した職員らにオレンジリングを渡す山田真由美さん(左)=名古屋市中村区で

 「認知症の人が、病気を理由に『式に出るのはやめておくわ』とならずに、出席して一緒に祝えるようにしたい」。名古屋市中村区の結婚式場「エル・ダンジュ ナゴヤ」で開かれた認知症サポーター養成講座。講師の同市西区の山田真由美さん(57)がこう切りだした。式場のウエディングプランナーら3人が受講し、気を引き締めるように背筋をピンと伸ばした。

 この式場では、3日後に山田さんの長男翔大(しょうだい)さん(29)が式を挙げる。しかし、山田さんは認知症がある。新郎の母でありながら、式への出席をためらった時期もあった。冒頭で語り掛けたことは、まさに心からの願いだった。

 山田さんがアルツハイマー型認知症と診断されたのは51歳の時。市の給食調理員だったが、次第に包丁をうまく使えなくなったりして休職した。診断直後は落ち込んで自宅に引きこもったが、2013年に若年性認知症の人と家族の交流会「あゆみの会」に参加。当事者同士で励まし合い、元気を取り戻した。

 昨年秋には、認知症サポーター養成講座の講師(キャラバン・メイト)になるための研修を受け、市内の養成講座で講師を務める。今年6月からは月1回、西区役所で認知症の人たちが話し合う「おれんじドア」を開いている。認知症になっても安心して暮らせる社会づくりに、当事者として加わりたい。それが行動の原動力だ。

 しかし、症状は次第に進む。トイレの鍵をかけたり、スプーンを使って食事したりも、ひと苦労だ。積極的に活動しながらも、一時は翔大さんの式への出席にはためらいを感じた。「言葉もとっさにうまく出ず、物忘れも出てきた。留め袖を着て、うまく振る舞えるかも分からない」

 式場の担当者に、講座を提案したのは、市認知症相談支援センター職員の鬼頭史樹(ふみき)さん(36)。山田さんの不安を知ってのことだ。「これを機に、さまざまなお客さんを迎える式場のスタッフにも、認知症の人が何に困るかやサポートの方法を知ってほしい」。鬼頭さんの話を聞き、山田さんは講座の講師を引き受けた。

 講座では、山田さんの外出時に付き添うボランティアをするケアマネジャー、山下祐佳里さん(42)も講師を務めた。山下さんは「認知症の人は一つ一つ考えてから行動に移すので疲れやすい。お色直しの時間などに『休憩しませんか』と声掛けするといいかも」と助言。山田さんは「自分でできることもたくさんあるので、気になったら声を掛けてもらえたら」と話し、受講の証しとなるオレンジリングを3人に手渡した。

 式当日、山田さんは着たかった留め袖姿で、新郎新婦の友人や家族、親族ら60人ほどにあいさつして回った。スタッフは、山田さんが式場内を移動する際、進行方向を示しながら「こちらの方を向いてください」と声掛けしたりするなど、山田さんが戸惑わないよう、注意を払ってくれた。

 講座を受講し、式を担当した伊藤真さん(33)は「最初に病状を聞いた時は、どこまでお手伝いしていいのか心配だった。でも、山田さんと話して、かまえずに一人一人に合った対応をすればいいと分かった」と話す。同じく担当した梶谷杏菜さん(24)は「今後も、式場で認知症の人が『自分の不安を言ってもいいんだ』と思ってもらえる対応を心掛けたい」と話していた。

 長男の門出を見届けた山田さんは「講座で話したことを理解してくれ、スタッフ皆さんが気に掛けてくれた。あきらめなくてよかった」と話す。認知症だからといって参加を見合わせる必要はない。自身の経験と支援の方法を、いろいろな場で伝えていくつもりだ。 (出口有紀)

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