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自分らしく 「AJU」の仲間たち (中) 働く

(2017年9月1日) 【中日新聞】【朝刊】【愛知】 この記事を印刷する

ゆっくりでも変われる

画像ブドウを収穫する平田光さん=岐阜県多治見市で

 岐阜県多治見市のブドウ畑が今年も、収穫の季節を迎えた。知的障害がある平田光さん(20)が、仲間とともに作業を始めた。はさみを手に房を切り取る。

 畑でブドウを栽培しているのは、愛知県小牧市のワイン醸造所「小牧ワイナリー」。名古屋市昭和区の社会福祉法人AJU自立の家が、知的障害者らの就労の場をつくろうと、2015年5月に設立した。

 名古屋出身の平田さんも、小牧にある祖父和田清造さん(74)の家に身を寄せ、特別支援学校を卒業した昨春から働く。

 光さんの障害の程度は、県の基準によれば重度。簡単な会話はできるが、家族の元を離れ、自立して暮らすのは難しいという。

 清造さんによると、光さんは計算ができない。現在、小牧ワイナリーから月給約2万円をもらっているが、その金額でどんなものが買えて、どれほどの価値があるのか、分からないという。働くことの喜びが、お金を稼ぐことにあるとすれば、光さんはそれをよく知らないことになる。

 ただ、清造さんは「光は光なりに、働くことに、充実感ややりがいを覚えている」とも語る。

 清造さんの家には常時、小牧ワイナリーで作られたワインが置いてあるが、光さんは時に「じいちゃん、ワインを飲みましょう」と誘ってくる。

 それは決まって、金曜日の夕食時。1週間の仕事が終わり、明日は休みという夜に限られる。

 きっと、ささやかな祝杯のつもりなのだろう。清造さんはともにワインを飲み、「今日は仕事で叱られました」「せん定作業で、ほめられました」といった話に耳を傾ける。孫は少しずつ、仕事を覚えているのだと思い、うれしくなる。

 先日は、清造さんが「石垣島に旅行に行かないか」と誘ったところ、光さんに「ブドウの木が、心配だから」と断られた。

 おじいちゃん子で、特別支援学校高等部のころから、全国各地への旅行にいつもついてきた孫。断られるのは初めてで、清造さんは心底、驚いた。

 「ゆっくりかもしれない。でも、光は成長しているんです」

 多治見のブドウ畑で収穫作業が始まった日、光さんは現場で、一緒に働くスタッフから注意を受けている。

 切ったブドウを無造作に箱に放り投げていたため。「投げてはだめ。傷んでしまうよ」と言われた。

 光さんは言葉こそ発しなかったが、一瞬、体の動きを止めた。そして、次に切った房は、そっと箱の中に置いた。果実を慈しむような収穫作業を、光さんは黙々と続けた。

 小牧ワイナリー ブドウの栽培からワインの醸造、瓶詰めやラベル貼り、販売に取り組んでいる。オリジナルワイン「ななつぼし」のほか、今春からは、輸入ワインをブレンドした「小牧城 信長」も販売している。現在は知的、発達、精神障害のある35人が働く。平均月給は約4万5000円。売り上げ増を図り、開設から10年後にあたる2025年には、40人に月給10万円を支給することを目標に掲げる。

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