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暴力、暴言ひどくなる「抗認知症薬」 減薬は主治医と相談 薬以外の原因見極めも

(2017年9月5日) 【中日新聞】【朝刊】 この記事を印刷する
抗認知症薬を服用する際の注意点

 認知症の進行を遅らせる効果がある「抗認知症薬」の服用により患者の暴力や暴言がひどくなったと悩む介護者が少なくない。次第に激しくなって薬の減量や中止に踏み切る人も。厚生労働省は昨年、抗認知症薬の投与を規定量未満に減らすことを認めたが認知症が進行する可能性もある。薬を減らす場合は主治医と十分に話し合う一方、薬以外に原因はないか慎重に見極める必要がある。(出口有紀)

 四年前にアルツハイマー型認知症と診断された妻(69)を介護する愛知県の男性(70)は8月上旬、抗認知症薬の量を半分に減らしてもらった。おとなしい性格だった妻が、抗認知症薬の服用を始めてから、感情が異常に高ぶりやすくなったためだ。最近では男性への暴力だけにとどまらず、道端で談笑している近所の人たちに「うるさい」などと暴言を吐くなど、感情の高ぶりは次第に激しくなっていた。

 主治医に相談したところ、薬を減らすよう勧められ、減薬に踏み切った。「蹴ったり殴ったりはおさまらないが、怒らなくなったかな」と男性。薬を減らすことに不安は残るが、3カ月後の次の受診日までは様子を見ることにしている。

 国内で承認されている抗認知症薬は現在、4種類。脳の神経伝達を維持したり、神経細胞の損傷を防いだりすることで、物忘れなど認知症の症状の進行を遅らせる。初期の段階から服用すると効果が高いとされる。

 ところが、脳の働きが活発になることで、意欲をつかさどる部分が活性化され、暴力や暴言、妄想、徘徊(はいかい)などを増幅させてしまうことがある。

 ただ、感情の高まりは薬だけが要因ではなく、日本老年精神医学会理事長を務める新井平伊(へいい)・順天堂大大学院教授(64)は「患者の性格や置かれた環境なども影響する」と話す。薬の影響も人によって異なり、実際に薬がどの程度、患者に作用したかを知るのは難しい。

 では、どうしたらよいのか。新井教授は「患者の様子を注視するしかない」と話す。「認知症は数日では進行しない。患者の様子が急に変わったとすれば、薬が原因と考えられる」

 医師は患者の日常生活の様子を継続して見られないため、薬の減量や中止を決めるのは、最終的に本人や家族の判断になる。新井教授は「薬を続けたいなら、別の抗認知症薬に替えることもできる。決めるのは本人や家族だが、薬の減量や中止で認知症が進行する可能性もあるので、専門医に相談してほしい」と話す。

 家族の接し方が、患者の暴言や暴力を引き起こしている場合もある。

 愛知県で認知症の妻(71)を介護する男性(77)は、妻の徘徊や暴力、暴言がひどかったため、主治医に相談すると「薬が合わないのかも」と言われた。1カ月中止すると、妻の攻撃性が消えて機嫌が良くなった。当初は一度中止した後に半量を服用する予定だったが、思い切って薬をやめた。

 同時に、妻への接し方も変えた。会話の中で妻の勘違いをいちいち指摘し、言い争うことが多かったが、やりたいようにやらせることにした。男性は「にこにこして、妻をおだてるようにすると、おだやかになった」と話す。

 抗認知症薬や患者の性格、家族との関係…。認知症患者の心の動きや行動に影響する要素は多様で、症状を把握するためには細かく患者を観察することが必要だ。感情が不安定で暴力や暴言に発展する場合は、いつ、だれが対象なのかなど細部を見るほか、日ごろの食事量や食べ方などにも気を配り、食欲不振になっていないかも確認する。

 これらを把握した上で、主治医や薬剤師、ケアマネジャーらに相談する。家族に暴力を振るう場合は、デイサービスを活用するなどして、家族以外の人に接する機会を増やすのも有効だ。新井教授は「介護やケアで、いい状況につながることもある」と話す。

画像新井平伊教授

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