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〈いのちの響き〉“無脳薬”音楽人 (上) 薬なしで障害と歩む道

(2017年9月6日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する

高松信友さん(29)

画像障害者施設の音楽イベントで、自作曲を熱唱する高松信友さん=名古屋市中村区で

 ♪つながりを求めているのなら 研究しよう 行き詰まって苦しくなったとき 研究しよう

 高松信友(しんすけ)さん(29)=愛知県知多市=はピアノに向かい、自作の「当事者研究のうた」を朗々と歌い始めた。8月下旬、名古屋市中村区の知的障害者施設で行われた音楽イベントでのことだ。

 当事者研究とは、精神障害者らが自らの症状を分析して回復につなげる作業で、北海道浦河町にある障害者生活拠点「浦河べてるの家」で生まれた。そこで暮らしていた高松さんは4年前、べてるの家の創始者、向谷地生良(むかいやちいくよし)さんから「テーマソングを」と求められ、即興で作った。

 歌が進むにつれ、額から汗が流れ、あふれる思いを込めた指が鍵盤を激しくたたく。

 ♪失敗はだめなことじゃない。今を一生懸命生きている自分に○(マル)

 客席の障害者や家族、支援者たちが、両腕で大きな丸をつくった。

 転勤族の会社員の家庭で育った高松さんは、絶えずイライラして、落ち着きのない子だったという。千葉県内の小学校3年のとき、級友に暴力をふるったことから、首都圏のクリニックに連れていかれた。診察した女性医師は発達障害の一種・注意欠如多動性障害(ADHD)と診断し、高松さんに怖い顔を向けて「これを飲まなかったら大変なことになるからね」と、リタリンという薬を見せた。うつ病などの治療薬。依存性などが問題になり、現在は処方を厳しく制限されているが、当時は子どもにも使われていた。

 薬を飲むと気分が高揚して「おれは何でもできると思ったりする一方で、怒りの感情も強くなりました…」。急に殴りかかるような行動も現れた。えたいの知れない物が見えたり、だれかが自分の悪口を言う幻聴が聞こえたり。

 高校時代に、別の医師が「統合失調症の症状が出ている」として、別の向精神薬に変えたが、今度は強烈な眠気に襲われた。幻覚、幻聴も変わらずつきまとった。医師に症状を訴えるたびに薬を増やされた。

 22歳で、べてるの家に。担当医は過剰投与が症状をこじらせたとみて、断薬を指示した。数カ月間、離脱症状の不安や混乱に苦しんだ後、快方に向かい、激しい怒りや暴力なども徐々に収まっていった。

 高松さんは、音楽の才能に恵まれ、小学生のときには合唱団でオペラのメンバーに選ばれ舞台に立った。中学校時代から曲作りを始め、これまでに2枚のCDを自作した。その一方で「小さいころから、それぞれの人に色が付いて見えて、その色で人を識別していた」と話すなど、独特の感覚を持っている。

 「もし、薬を処方されていなかったら、どんな自分になっていたか想像がつきません。ひょっとしたら副作用の幻覚なども曲作りにはプラスだったかも」と振り返りつつ、力を込めた。「でも、子どもたちに自分のような体験はさせたくありません」

 音楽で身を立てることを目指し、昨年3月に愛知県に来た。精神障害者の地域支援NPO法人「びすた〜り」(知多市)の事務局長・高山京子さん(53)らの援助を受け、ライブなどの活動を続けている。高山さん夫妻が営む無農薬の農園を手伝いながら、高松さんは自らのキャッチフレーズを決めた。

 薬に抑圧されることなく、自分の道を歩く「無脳薬音楽人」だと。(編集委員・安藤明夫)

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