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〈いのちの響き〉“無脳薬”音楽人 (下) 自立した姿見せ恩返し

(2017年9月7日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する

 「みんな生まれつき、すごい才能を持ってるんだ。このセッション、成功したら大変なことになるぜ」

 愛知県武豊町の保育園で、高松信友(しんすけ)さん(29)は、園児たちを前に声を張り上げた。運び入れた楽器箱から、園児たちは小太鼓、トライアングル、笛など、思い思いの楽器を手に取り、目を輝かせている。高松さんが刻むタンバリンのゆったりしたリズムに合わせて、自由な演奏が始まった。「じゃ、次はここにいる全員と一度は目を合わせて、相手の音を聴きながらやってみよう」

保育園児たちとさまざまな楽器で音を出す高松信友さん。自由さが心地よいセッションだ=愛知県武豊町で

 愛知県に来て1年半。高松さんの活動は広がりを見せている。さまざまな楽器を使って音楽の魅力を体感してもらうセミナーは、幼児にも知的障害者にも好評だ。打楽器のサークルも立ち上げた。ヒップホップ系の歌手とのライブにも初挑戦する。3枚目のCD製作を目指して、ネット上で協力を呼びかけるクラウドファンディングも始めている。音楽仲間から園児まで100人に手伝ってもらって、謝礼も払いたいという。

 高松さんを応援する高山京子さん(53)=愛知県知多市=は「規則正しい演奏じゃなくて、セッションの予想の付かない化学反応みたいなものにワクワクするようです。それも注意欠如多動性障害(ADHD)の特徴かなと思ったりもします」と話す。

 高山さんは精神保健福祉士で、精神障害者の地域支援に取り組んでおり、北海道の「浦河べてるの家」と交流する中で、高松さんと知り合った。

 「以前は暴れたりしたみたいだけれど、5年前に彼のステージで『優しい春風』という歌を聴いて、心を揺さぶられました」

 ♪つらすぎる現実を突きつけて 「もう駄目だ」と信じ込ませて 灯(あか)りなんて もう手に入れるどころか…

 自立への道が見えないつらさをつづり、手を差し伸べてくれた「君」を春風にたとえた繊細な詞だった。

 以来、愛知県でべてるの家の研修会を開くたびに高松さんにも来てもらうなどして、つながりが強まった。そして一昨年、愛知県内で開いたライブで、高揚した高松さんが突発的に「ここに住むぞ。みんな応援してくれ」とカンパを呼びかけたことから、愛知への“巣立ち”が実現した。

 高山さん宅に3カ月間、居候してからアパートに移ったが、不定期なライブやCD販売の収入だけでは生活は苦しい。まだまだ高山さんの支えが必要だ。気持ちが落ち込んだ時期もあった。その背景には「彼が両親の愛情を求めながら得られなかったつらさを抱いているのでは」と高山さんは感じる。

 「愛着の形成がうまくいかないまま大人になった人が回復できる姿を確認したいという思いもあります。それ以上に、信友君が一番輝ける場所を模索し続ける姿は、本当に力強いし、夢を応援したい。これは、支援ではなく子育てに近い感じ」と高山さん。

 大きな愛情に感謝しつつ、高松さんはこう話す。

 「薬に自分の力を封じ込められてきて、唯一、力を出せたのが音楽だった。だから、苦労は自分で受け止めて、音楽でメシを食えるようになることが恩返しだと思います」

 (編集委員・安藤明夫)

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