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研修制度導入2年 特定看護師 広がらぬ理念

(2017年9月12日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する

施設や指導者不足 「国の促進策期待」

画像実習で男性患者の気管カニューレを交換する看護師の中村紀子さん(右端)=滋賀県彦根市で

 自らの判断で一定範囲の医療行為ができる「特定看護師」の研修制度が、2015年10月の導入から2年を迎える。超高齢化社会で在宅医療を支える人材として期待され、国は全国で10万人の養成を目指しているが、実際に研修を受けた看護師は、想定より極端に少ない。人や資金面の理由で研修機関が増えないことなどが拡大を阻んでいる。(大津支局・浅井弘美)

 ■独り立ちへ実習

 「きょうはカニューレを交換しますね」

 滋賀県彦根市の住宅。同市立病院の看護師中村紀子さん(36)が、ベッドの上の男性(79)に話し掛けた。男性は2年前に食道がんの手術を受け、のど元にたんを吸引する呼吸補助具「気管カニューレ」を装着している。

 カニューレの交換は通常、医師が行う。中村さんは昨年6月から1年間、大津市の滋賀医科大で特定看護師の研修を受け、交換できるようになった。特定看護師としての独り立ちに先立ち、同病院は医師らが同行する実習を複数回、課しており、中村さんの男性宅訪問は、その一環だ。

 中村さんは普段、院内の集中治療室などで勤務。この日の実習を終えて「大変緊張した」と話したが、指導している同病院の在宅診療科部長、切手俊弘医師(47)は「患者との信頼関係もあり、安心して任せられる」と太鼓判を押す。

 ■目標10万人養成

東海・北陸などの特定行為研修機関

 医師や患者が現場で期待する特定看護師。厚生労働省は、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる25年度に向けて、全国で10万人を養成する目標を掲げている。そのためには年間1万人を超える研修修了者が必要だが、今年3月末までの修了者は、その1割に満たない583人にとどまっている。

 背景にあるのが指定研修機関の少なさだ。厚労省は大学や病院など計300カ所を目標にしているが、現状は54カ所だけ。東海や北陸などでは、愛知、滋賀、福井、石川、富山の各県に計10機関(8月現在)があるものの、岐阜、三重、長野、静岡の各県には1カ所もない。

 研修機関が増えない理由に指導者不足が挙げられる。医療現場はただでさえ人手が足りず、指導を担う医師は日常業務に追われている。芳珠記念病院(石川県能美市)は来年度から研修生を受け入れるが、佐久間寛院長は他の病院などに広がらない現状について「医師の理解と協力を得られないことが、国への申請に二の足を踏ませているのではないか」と話した。

 ■受講者も負担大

 カニューレ交換の実習に臨んだ中村さんが研修を受けた滋賀医科大の関係者は「教材を含めて研修は手作りだった。ここまで現場の負担になるのは解せない」と不満を漏らす。国は10万人の養成を掲げる一方で、各機関に対して研修内容の基準を示していない。

 研修者の負担も大きい。働きながら年間330時間以上の研修を受けなければならず、受講料も滋賀医科大の場合で年間約60万円必要。岐阜県は県内に研修機関がないが、特定看護師の必要性は認め、県外での研修に最高で費用の半分を負担する補助事業を本年度から始めた。

 関西地方の総合病院に勤める40代の男性看護師は、職場の無理解を感じている。研修への参加を希望したところ「依願退職してから」と言われた。「研修修了者をどう扱っていいのか分からないのではないか」。指定研修機関の愛知医科大(愛知県長久手市)の担当者は、制度の理念や目的が多くの医療現場に浸透していないのではないかと推測する。

 これらの課題に対し、厚労省の担当者は「研修機関や受講者の確保は、まだまだだと認識している。制度の認知度の向上も必要だ」と説明。一方で、実際に研修に携わる病院関係者は「国による研修費用の補助や、研修者を送り出す病院に診療報酬が加算されるなどのインセンティブがないと受講者は増えないだろう」と、より具体的な促進策を国に求めている。

 特定看護師の研修制度 保健師助産師看護師法の一部改正で2015年10月に始まった。看護師は原則、医師の指示の下でしか医療行為を行えないが、研修後はあらかじめ医師が作成した手順書の範囲内であれば、専門的知識や技能が特に必要とされる医療行為ができるようになる。対象は「呼吸器関連」や「循環器関連」など21区分、計38の行為。

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