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〈味な提言〉(11) 石川の魚の発酵食 野菜と合わせごちそうに

(2017年9月17日) 【中日新聞】【朝刊】【愛知】 この記事を印刷する

フリー編集者 木村信夫さん

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 雪の季節がやってくる。かあか(母親)の手もとには、冬に一段とおいしさを増す生野菜と漬物野菜、そして、よく熟成した「こんかいわし」「いしり」など魚の発酵食品がある。これらを組み合わせて、わが家自慢の味に腕を振るう。「日本の食生活全集」の『石川の食事』に見てみよう。

 野菜の保存とともに、能登・加賀の人びとは魚もしっかりと発酵保存し、その技を大事に伝えてきた。代表の一つが、いわしを米ぬかと塩で漬ける「こんかいわし」(米ぬかいわしがつまった呼び名)である。能登の海では春にたくさんのいわしが取れる。ぬか床といわしを交互に重ねて、重しをしておき半年ほどしてから食べ始める。

 「ぬかをつけたまま焼くと香ばしい香りがするし、ぬかを洗い落として薄切りにし、酢をかけて食べるのもおいしいもので、加賀も能登も県下全域にわたってなくてはならないおかずである」「能登の内浦や外浦でも一斗五升樽(だる)に一杯ぐらいずつ各家で漬ける。柳田村などの丘陵地では、輪島から海女が漬けたものを樽のまま売りにくるので、米と交換する。河北郡の山手では500尾から700尾、河北潟近辺では200尾ぐらいを漬ける。白山麓では1000尾も漬けている家もある。海から遠く離れるほど、大量にこんかいわしを漬けている」(同書「石川の食とその背景」より)。

画像こんかいわし=千葉寛さん提供

 こんかいわしは、そのものがご飯のおかずになるだけでなく、野菜などをおいしく料理できることがありがたい。羽咋(はくい)地方の「べか」は、こんかいわしのうま味と塩味を生かして野菜とともに煮こみ、酒かすを加えたなべ料理で、冬にうれしいごちそうだ。「こんかいわしの大根なます」は、こんかいわしを洗って湯で煮て身をほぐし、大根の千切りと混ぜて酢みそで味つけするもの。人寄せなどのときつくり、深皿に盛って好きなだけ食べる(「能登山里の食」)。

 ごちそうといえば温かで香ばしい「貝焼き」がある。「大きなほたて貝の殻に、けずり大根と、ぬか漬いわしを洗ったり切ったりしないでそのまま入れ、いろりの渡し(もち焼き網)の上で焼きながら食べるもので、味は格別である」(「能登外浦の食」)。

 そんな貝焼きの格別な味を生み出すのが魚醤(ぎょしょう)の「いしり(いしる、魚汁)」である。魚の内臓(べと)と頭を塩で漬けて発酵させ、夏を過ぎて樽の下のほうにある栓を抜くと汁が出てくる。これが「いしり」で、秋田の「しょっつる」、香川の「いかなご醤油」とともに、日本三大魚醤とされてきた。魚醤は、魚の動物性タンパク質が分解されて出てくるアミノ酸と、核酸を豊富に含み、独特の香りとうま味がある。

 能登の外浦のいしりは、こんかいわしを漬けるときなどに出る大量のいわしの内臓や頭でつくる。いっぽう、内浦では、いかの内臓(ごろ)と目玉をたるに入れて、たくさんの塩を混ぜて漬け込んで発酵させる。

 海のいのちを無駄なくいただく工夫が、素晴らしい調味料を生んだ。

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