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〈味な提言〉(12) 子どもも参加する地域の食 地域の中で育つ味覚

(2017年9月24日) 【中日新聞】【朝刊】【愛知】 この記事を印刷する

フリー編集者 木村信夫さん

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 かつて、農村には農作業を手伝い、食材調達や食事づくりにかかわる子どもたちの姿があった。「日本の食生活全集」(農文協刊)に垣間見てみよう。

 「田植えのころは、つぶ(たにし)とりも子どもたちの遊びになっている。苗代や田んぼには、たくさんのつぶがいる。苗代では水底をはうように動いている。田んぼでは、稲刈りのときの足跡のくぼみなどをちょっと掘り起こしてみると、いくつかいる。そして、子どもたちがとったつぶは母や祖母の手で必ず食卓に出され、みんなに『んめぇ、んめぇ』と食べてもらえる。それは子どもたちにとっては、少し晴れがましいような、得意な気分である」(『岩手の食事』「県南の食」)

 「夏になると小あゆが川でもよくとれる。子どもたちは川遊びをしながら帽子ですくってとる。家に持って帰ると、『ぎょうさん(たくさん)あるで、もうええわ』と迷惑がられるほどよくとれる。しかしむだにはせず、大なべに入れてゆでる。ゆであがった小あゆをざるに上げてむしろに広げ、天気のよい日にからからになるまで干す」(『滋賀の食事』「姉川蚕飼いの郷の食」)。これを缶に保存し、だしや煮ものなど1年を通して重宝に使われる。

画像岩手県北の豆腐でんがく=千葉寛さん撮影

 「春になると、河口から10町ほど上流にかけての、潮の満ちひきする浅い川底の石にびっしりとあおのりがつく。新学期が始まると、学校帰りの子どもたちが川べりに風呂敷包みや手さげを置いて、あおのりとりを始める。いったん家に帰ると、農作業の手伝いが待ちうけているため、川へ遊びに出かける暇などなくなるので、親の目をぬすんでのあおのりとりである。これを真水でよく洗い、さおにかけて干す。ほとんどが半日くらいで乾くので、翌朝は弁当の麦飯の上に、焼いて醤油(しょうゆ)をかけたあおのりが薄くのせてある。昼、学校で弁当を開くとまわりもみな同じで、どの子も唇にあおのりの粉をくっつけている」(『長崎の食事』「北松浦・壱岐の食」) 

 「(草だんごに使う)粉のほうは、彼岸が近づくと、うるち米を2、3升洗いあげ、陰干しにしておいて石臼でひく。この時期になると、どこの家でも『粉をひくから遊びにいってはいけない』と子どもにいって、手伝わせる」(『東京の食事』「武蔵野の食」)

 「大豆は10時間を目安に一晩水につける。あまり長くつけすぎると腰が弱く、よい豆腐ができない。水と豆を一緒にすくって、石臼でひきおろす。まわりで遊んでいる子どもたちに『ほれみな手を出せ』と呼びかけると、大喜びで臼を回して手伝う」(『山梨の食事』「富士川流域の食」)。

 そんな子どもたちの味覚が家族や地域のなかで育っていく。岩手県北での話。

 そばかっけや豆腐でんがくは、家族がいろりを囲んで食べた。そのとき、大人は辛味のあるにんにくみそで食べ、子どもは甘味のあるくるみみそやじゅうね(えごま)みそを喜んだ。しかし、子どもたちは、自分も大人たちと同じように、にんにくみそを食べたいと、少し背伸びしたい気持ちになる。そうして、「あーこれが食べられたか」と褒められたりしながら、だんだん食の階段を上っていく。家や地域でふれ合い語り合いながら、味覚も成長していく、それが食事の場であった。

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