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〈生活部記者の両親ダブル介護〉(27) 車いす

(2017年10月11日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する

段差も楽々飛躍の一歩

画像まずは車いすの前輪を上げたところ。てこの原理を応用しているので、思ったほど力は要りません

 人類にとっては小さな一歩だが、一人の年寄りには偉大な飛躍だ−。月面から発した名言の誤植ではない。車いすの父(80)は、本当に飛躍したのだ。

 クララの時代の車いすとは違い、あちこち工夫が凝らされている。生かせるかどうかは扱う人間次第だ。車いすの敵は段差。数センチの段差なら無理やり引っ張るが、ある日、ネットで重要な情報をつかんだ。「30センチくらいなら楽々と上がれます」

 試してみようと、車いすを持ち込んでいとこ宅へ父を連れて行く。私の初の著書を真っ先に買い、闘病中に読んでくれたが間もなく亡くなった。なのに、ドイツからの帰任や介護のバタバタで、線香をあげる機会もなかった。

 父を自動車から車いすに移し、玄関へ。室内を汚さないよう入念にタイヤを拭く。車いすを上がりかまちに向け、知識通り「ステッピングバー」なる部分を右足で踏む。同時に「手押しグリップ」を手前に引くと、車いすの前輪が浮いた。前輪を上がりかまちに乗せ、手押しグリップで前方斜め上に力を入れると、後輪も上がりかまちの上に。まさに偉大な飛躍だった。

 父はまず仏前にこうべを垂れた。案内されたリビングには、どら焼きが山積みに。3つ食べ、4つ目に手を伸ばした時、亡きいとこの妻は「どら焼きばっかではいかんわ」と、父にフルーツゼリーを勧めてくれた。

 栄養バランスへの配慮に感謝すべき所だが、学校でも社会でも車いすの扱い方は習う機会がなかったことを思う。その知識は一般にも大事だ。学ぶ場があれば、家族も社会も優しくなる。とか考えている向こうで、父はチラチラどら焼きに視線を送っていた。

 (三浦耕喜)

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