つなごう医療 中日メディカルサイト

周知不足で進まぬ救済 アスベスト被害の和解手続き

(2017年10月11日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する

鈍い国の動き 個別通知やっと開始

画像亡くなった父親の勤務記録簿とじん肺の検査結果を手にする男性。「死ぬまでせきに苦しんだ」と思い返し提訴に踏み切った=岐阜県羽島市で

 建築材や繊維製品などアスベスト(石綿)を含む製品を扱う工場で働き、粉じんで健康被害を受けた元労働者や遺族の救済が遅れている。国は、患者らが提訴し要件を満たしていることが確認され、和解が成立すれば損害賠償金を支払うとしており、今月から対象となる人への個別通知を始めた。しかし、これまで積極的に周知してこなかったため、和解が成立し賠償額が確定した人は対象者の1割ほどの236人(9月末時点)にとどまっている。 (花井康子)

 「父はまじめに働いただけなのに、孫の顔も見られず亡くなった。国も会社ももっと早く対応してほしかった」。岐阜県羽島市の会社員男性(53)はこう憤る。今年1月、男性は会社員の弟(49)とともに、2003年に66歳で亡くなった父に対する損害賠償を求めて、岐阜地裁に提訴した。

 男性の父は1953年から43年間、市内の建材などの製造工場で働き、肺を患った。男性は「帰宅して玄関先で作業着を払うと、ものすごい量の白い粉が舞い上がった」と振り返る。年々、せきがひどくなり、肺がんと診断された。

 労災認定され、退職金に「慰労金」が上積みされたが「それで終わりだと思っていた」と話す。それでも、晩年は一日中、苦しそうにせき込んでいた父を思い出すと、わずかな慰労金で済まされたことに釈然としない思いを抱えてきた。

 国の賠償金支払いの対象となると知ったのは1年前。被害者団体「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会東海支部」(名古屋市昭和区)のチラシを見てからだ。同支部の支援を受け提訴にこぎ着け、近く和解が成立する見通し。「遺族でも知らない人はたくさんいるはず。早く知らせてあげてほしい」と話す。

 静岡県富士市の70代女性も、夫への損害賠償を求めている。女性の夫はパイプ製造会社でマスクを着けず、石綿を素手で麻袋に入れる作業に従事。腹膜のがんで2004年に64歳で死亡した。「夫は急にやせ細り、痛みに苦しんで亡くなった。労災認定には時間がかかり一人でくじけそうだったが、訴訟ができてよかった」と話す。

 石綿は、日本では1960〜90年代に大量に輸入され、2006年に製造販売が全面禁止された。疾患には20〜40年の潜伏期間があるため、近年も死者数は増加傾向にある。しかし、潜伏期間の間に工場が閉鎖され、資料が残っていないなどで、提訴前も審理に入ってからも苦労するケースが多かった。

 14年10月の大阪泉南アスベスト訴訟最高裁判決は、石綿の危険性が確認された1958年5月から国が排気装置の設置を義務づける前の71年4月に石綿工場で働いた患者について、国の規制に不備があったと認定。これに基づいて国は、同期間に粉じんを浴びる仕事をし、健康を害したことなどが確認できれば裁判で和解手続きを進め、賠償金を支払ってきた。

 厚生労働省はこれまでパンフレットを各地の労働局などに配布するだけだったため、多くの患者らが国の対応を知らず、厚労省石綿対策室によると9月末までに提訴したのは全国で433人。通知の対象となるのは全国で2314人だが、このうち住所と氏名が分かっているのは756人にとどまる。

 泉南訴訟などを担当した大阪アスベスト弁護団の村松昭夫団長(63)は「被害者は高齢化している。早めに救済しなければ」と話している。

 訴訟の相談は、法テラス(日本司法支援センター)=電(0570)078374=へ。

中日新聞広告局 病医院・薬局の求人