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認知症の人への運転中止指導 津の病院で実施

(2017年10月17日) 【中日新聞】【朝刊】 この記事を印刷する

疑似装置で“事故”体感 本人「操作難しいせい」

女性、息子、医師それぞれの思い

 高齢ドライバーによる重大事故が相次いだことを受け、75歳以上の高齢者の認知機能検査を強化した改正道交法が3月に施行されてから約7カ月。免許の自主返納は増えているものの、「自分は大丈夫」と運転をやめない高齢者は多く、家族が悩むケースは後を絶たない。模擬運転で認知症患者の運転技術を確認し、運転をやめさせる指導をしている三重県の病院に足を運んだ。 (出口有紀)

 交差点を左折しようとすると、左から自転車の子どもが横断歩道を渡り始めていた。曲がり切る前にその姿に気がつき、ブレーキを踏んだが間に合わず、自転車を跳ね飛ばしてしまった。「やってしまった、初めての事故だわ」。ハンドルを握っていた女性が声を上げる。側道から本線に合流しようとした際には、本線を後方から走ってきたトラックと衝突寸前まで近づいた…。

画像長男(左)が見守る中、作業療法士の女性(右)に励まされながら、検査を続ける女性=津市の藤田保健衛生大七栗記念病院で

 三重県の70代の女性が9月下旬、藤田保健衛生大七栗記念病院(津市)の運転の疑似体験装置「ドライブシミュレーター」で、模擬運転に臨んだときのこと。付き添いで来た50代の長男は、女性が操作ミスをするたびに顔をしかめた。

 模擬運転は、認知症と診断された患者の運転技術を実際に確かめるための検査で、同病院内科医師で藤田保健衛生大教授の脇田英明さん(56)が2014年2月から始めた。女性は、実際の路上でなかったことに胸をなで下ろしつつ「30年、一度も事故は起こしていない。装置の操作が難しい」とこぼした。

 模擬運転による検査は、路上運転のほか、点滅する赤、青、黄色のランプによってアクセルやブレーキなどを操作する検査など計5種類。女性は作業療法士の女性に励まされながら、1時間ほどかけて検査を終えた。反応動作や判断の速さなどをA(優秀)からE(不安)まで5段階で評価。女性にはEの結果もあったことなどから、運転の継続は危険と判断された。

 脇田さんは、女性と長男に「一番目立つのは、装置の指示とは食い違った反応をしてしまうこと。操作ミスも多い。信号や周囲の車、歩行者など一度に多くのことに注意を払って頭の中でまとめるのが苦手になっている」と説明した。

 別居していた長男が、女性の変化に気付いたのは昨年の冬ごろ。明るくて活動的な母がふさぎ込んで、ボーッとしていることが多くなり、それ以前に会った同年秋ごろと比べて雰囲気が変わっていたからだ。今年3月に同病院を受診し、経過観察後に初期から中期のアルツハイマー型認知症と診断された。

 ただ、女性は病気の認識はなく、模擬運転による検査結果にも「装置が難しかっただけ」と受け入れようとはしない。「私より年を取った人や運転がへたくそな人も運転をしている」。今は長男家族と同居しているが、家族が出掛けて一人になる日中、車で近くのスーパーやコンビニに出掛けている。

 脇田さんは「交通の便が悪い地域では、車に乗る高齢者が多い。家族が運転をやめるよう求めても、納得せずに運転を続けるため、悩む家族は少なくない。検査結果を見て、運転を卒業する方向で話し合ってほしい」と語る。

難しい説得 具体策は 段階的に機会減らす 検査に家族立ち会い

 同病院ではこれまで、認知症と診断された患者19人がこの検査を受けている。うち運転をやめたのは12人。続けている人は3人いる。

 認知症はゆっくり進行し、症状にも個人差があるため、本人や周囲が運転が難しい状態になっていることに気付かないことがある。脇田さんは「病気のせいで、運転へのこだわりが強くなる人もいる。強く説得しすぎて本人を追い詰め、逆効果になることもある」と指導の難しさを語る。

 検査後に一度はやめると決意しながら運転を続けているアルツハイマー型認知症の70代後半の女性の場合、運転は週1回、家の近所の温泉に行く時に限っている。本人が納得していない場合、近場への運転に限り、次第に回数を減らして段階的にやめさせる方法があるが、1年くらいかかることもあるという。

 家族の理解も欠かせない。検査には、家族にも立ち会ってもらう。運転をやめると認知症が悪化すると誤解している家族もいるためだ。「送迎などに手間が掛かると、説得に消極的な家族もいる。ただ、検査を見てもらうと、患者がもう運転を続けられる段階ではないと、分かってもらえる」

 年齢とともに、自分の運転を客観視できなくなる傾向もあるようだ。大手損害保険会社MS&ADグループの基礎研究所(東京都)が2月に実施したアンケートによると「自分の運転に自信を持っている」と答えたドライバーの割合は、高齢者では年齢が上がるとともに上昇することが分かった。80歳以上は72%が自信を持っていた。

 同研究所の担当者は「年齢が上がると、危険への感覚が鈍くなっているのかもしれない」と推測。脇田さんは「お年寄りは、自分の運転能力を客観的に評価しにくくなる傾向があるため、納得してもらうには、検査の結果など具体的なデータが必要だ」と話している。

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