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言葉の重み 胸に刻んで

(2017年10月14日) 【中日新聞】【朝刊】【福井】 この記事を印刷する

県済生会病院副院長 宇野英一さん

画像「患者さんが選びやすいように、正しい情報を提供する」と話す宇野さん=福井市の県済生会病院で

 診断の結果や治療法、そして手術のリスクがどれだけあるのか。患者の声を聞き、受け止め、分かりやすい言葉を使って説明する。「患者さん自らが適切な医療を選びやすいように情報を提供するためです」

 県済生会病院副院長の宇野英一さん(62)は、脳神経外科の医師として病室や診察室で患者と向き合う。40年近く前、白衣を着るようになったころは違った。医師が治療方針を提示し、進めていくのが流れだった。当事者であるはずの患者の影は薄かった。

 当時、「ムンテラ」という言葉が使われていた。ドイツ語の「ムント(口)」と「テラピー(治療)」を語源とし、病状説明という意味だ。ただ、知っている人が知らない人に教え、「言いくるめるとか、医者の方針に納得させる」との意味合いも。医者には権威があり、絶対とみられていた。

 今は、英語の「インフォームドコンセント」の考えが広がっている。十分な説明と同意と訳される。医師には丁寧に説明する義務が、患者には説明を受け治療法を選ぶ権利がある−。「医療訴訟が増え、患者の意識、権利がはっきりしてきたからでしょうね」

 それ以前に大切にしていることがある。共感だ。「患者さんの訴えたいことをいかに受け止めるか」。患者の言葉にじっくり耳を傾ける。病状が重くても軽くても同じように。時には、言葉にならない思いを表情からすくい取る。患者や家族との信頼感があってこそ治療はスムーズに進むという信念がある。

 「あの時、説明がなかった」。診療行為全体の管理責任がある診療部長という立場でもあり、患者から厳しい声を受けることも少なくない。治療前は「説明」でも、事後には「全部言い訳になる」。ただ、説明を怠っているわけではない。

 手術や治療で、100人に1人の確率で合併症が起きる可能性がある場合、「100人に1人のことでも、当事者からみれば100%」。説明する方と受け取る方とでは、言葉の重みに違いが出る。すれ違いがわだかまりを生むことがある。

 医師としての歩みは、言葉の影響の大きさを胸に刻む歳月でもあった。「求められているのは、患者さんとの間で信頼関係を築き上げること。言葉を使って、患者から不安を除き、勇気を与えなければいけない」

 選挙では、言葉の重みも問われている。(清兼千鶴)

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