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満足いく生涯を手助け 丹生川診療所 土川権三郎さん

医人伝

(2017年11月7日) 【中日新聞】【朝刊】 この記事を印刷する

丹生川診療所(岐阜県高山市) 所長 土川権三郎さん(65)

画像丹生川診療所長の土川権三郎さん

 約4350人が暮らす北アルプスの麓、岐阜県高山市丹生川町。町でたった1人の医師として20年、地域医療に尽くしてきた。「患者が希望する生き方をさせてあげたい」と、訪問診療で痛みを取り除く緩和ケアに力を注ぐ。

 午前の外来を終えると、週3回は訪問診療へ出掛ける。担当する患者は46人。脳卒中や脊髄損傷、認知症などさまざまだ。末期がんの人らには医療用麻薬などで痛みをやわらげ、最期をみとることもある。「自宅治療は精神的な落ち着きを与え、症状がやわらぐことだってある」と経験を語る。

 在宅医療で大切なのは医師と患者、看護師らスタッフ、家族とのコミュニケーションに尽きる。「本人も家族も満足して生きるためには、納得できるまで説明すること」。家族へのサポートのために、不安を語り合う集会も開く。

 自宅で最期を迎えたいと希望する人は5割を超えるが、実際は85%が医療機関や施設で亡くなる。在宅医療の選択肢を説き続けた結果、丹生川町では33%が自宅で家族にみとられる。この思いと活動が日本医師会に認められ2015年、地域の優れた医師を表彰する「赤ひげ大賞」に選ばれた。

 胃がんで70代で亡くなった短歌講師の男性が目に浮かぶ。手術したが再発し、在宅医療を希望。治療を受けながら仕事を続け、人生をまっとうした。男性や家族から贈られた作品には訪問診療に来る“医師”の姿も詠まれていた。「心が通じ合っていたんだなと。医者をやってきて良かったと思えた瞬間だった」と振り返る。

 旧丹生川村出身。祖父、父と続く開業医の三男として育った。名古屋大を卒業し、内科医として南生協病院(名古屋市)で勤務。その間に父が亡くなり、実家の診療所は廃業。丹生川診療所の前任の医師が倒れたのを機に1997年に地元へ戻った。患者と密に接するうちに、患者の希望にかなった医療が必要だと感じるようになった。

 私たちはあなたが心から安らかに死を迎えられるだけではなく、最期まで精いっぱい生きられるように最善を尽くします−。近代ホスピスの母と言われる英国の医師、シシリー・ソンダースの言葉を胸に刻む。「もっとこうすれば」と思うことはある。“最善”とは何か。満足した生涯の手助けのため、試行錯誤は続く。 (坂本圭佑)

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