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<負けないで 性被害者からの発信> (上) 自分を取り戻す闘い

(2017年11月8日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する

痛み分かる仲間求めて

画像「ピアサポートリボンの会」で、参加者の話を聴く涌井佳奈さん=名古屋市内で

 性犯罪を厳罰化する改正刑法が7月に施行された。しかし、レイプ、性的虐待、DVなどの被害者が声を上げられず、精神的な重荷を抱える状況は、容易には変わらない。名古屋市で昨年誕生した自助グループ「ピアサポート リボンの会」の活動を通じて、性暴力を受けた体験を乗り越え、本来の自分を取り戻す道を探る。(編集委員・安藤明夫)

 名古屋市内で開かれた「ピアサポート リボンの会」の月例会。6人の女性が和室の机を囲んでいた。

 一輪のガーベラを手にした人が思いを語り、終わると次の人にガーベラを手渡す。具体的な内容を外に漏らしたり、批判したりするのは厳禁だ。

 「ふわふわしてる感じで、自分がどこにいるのか分からない」「人と接するのがつらいのに、仕事をこなしていて、毎日すごく疲れる」。精神的な症状を打ち明ける人、離婚して経済的な悩みを抱える人、自身への嫌悪感を語る人…。皆、過去に性被害を受けた体験を抱えている。しばしば明るい笑い声もはじける。安心して胸の内を打ち明けられて、元気になれるという。

 ミーティングは、性被害・性虐待の被害者、DVなど家庭内の問題を抱える人の2グループに分けているが、両方に参加する人も多い。

 代表の涌井佳奈さん(42)=同市=がこの会を作ったのは「自分に必要な場だったから」だ。

 高校時代に、信頼していた教師から関係を迫られ「これは恋愛だから、誰にも言っちゃいけない」と口止めされた。以来、校内外でたびたびわいせつな行為をされた。物のように扱われることがつらくて、関係を終わらせたが、「魂の殺人」とも呼ばれる性被害の後遺症は強烈だった。

 自分を大切にすることができずに、自暴自棄になり、暴力的な男性に依存したり、自分を支えようとしてくれる相手も傷つけたりした。結婚生活もうまくいかなかった。35歳でうつ病と診断され、その根本が高校時代の性被害だと気付いた。

 当時住んでいた東京の医療機関を回って治療を受けたが、性被害のつらさを分かってくれる医師は少数。トラウマ(心的外傷)を抱えながら、“普通”を装うことに苦しみ、薬を過剰にのんで、「死にたい」という思いが募った時期もあった。

 力になったのが、東京の自助グループ。DV被害者主体だったが、同じ傷を持つ仲間たちの言葉が心に響いた。そこから、過去の自分を振り返り、本来の生き方を取り戻すための作業を続けていった。名古屋に転居してから、近くに自助グループがないことを知り、立ち上げた。

 神奈川県座間市のアパートで9人の遺体が見つかった事件の報道に、涌井さんは「被害者の女性たちと私は、紙一重の違いだと思う」と話す。

 「死ぬことばかり考えている時は、怖いとか家族が悲しむとか考えられなくて、やさしそうな男性が巧妙に近づいてきたら、吸い寄せられていたでしょうね。今になってわかるけれど、当時の私は、本当に死にたいのではなく、私を理解してほしい、助けてほしいと、場や仲間を求めていたのだと思います」

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