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<負けないで 性被害者からの発信> (下) 成長する人へ

(2017年11月9日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する

安心して言える場が力に

AIDS文化フォーラムで、当事者が声を上げることの大切さを話す涌井佳奈さん(右)=名古屋市内でAIDS文化フォーラムで、当事者が声を上げることの大切さを話す涌井佳奈さん(右)=名古屋市内で

 愛知県在住の30代の女性は、数カ月前、夫が10代の娘にわいせつな行為をするのを目撃した。

 娘を守るため、夫に家から出て行ってもらったが、衝撃と怒り、不安で眠れなくなった。助けを求めてネットを検索する中で見つけたのが、自助グループ「ピアサポート リボンの会」。代表の涌井佳奈さん(42)に連絡を取り、会に参加してみると、さまざまな被害体験を持つメンバーが、夫を追い出した女性の行動をほめてくれた。経済的な理由で離婚に踏み切れないことも理解してくれた。

 「安心して言える場があり、聞いてくれる人がいることが本当に力になりました」と女性。今は、下の子たちから「パパは?」と聞かれても、心を乱すことなく「家に帰れないけれど、みんなのために頑張って働いてるよ」と答えられるという。

 涌井さんは「会を始めてみて、性的虐待が多いことに驚きました」と話す。参加する女性二十数人のほぼ半数が、性的虐待の被害体験のある人や、その家族。トラウマ(心的外傷)でうつ状態になったり、経済的な問題を抱えている。しかし、公的な相談機関を訪ねる勇気が持てないため、実態が見えにくい。「声を上げること」の大切さを痛感したという。

忘れることも消すこともできない。“その後”はもっとつらい

 涌井さんは自身の体験から「周囲から『忘れなさい』と言われても、性被害は忘れることも消すこともできない。被害はつらいけれど、“その後”はもっとつらい」と感じている。だから会の目標は「サバイバー(生存者)からスライバー(成長する人)へ」。団体名も「Thrive(スライブ)」に改めて、リボンの会は自助グループの活動として続けている。つらさを抱えて生きるのではなく、体験を受け入れ、成長していくという信念だ。

 9月には、名古屋市で行われた「AIDS(エイズ)文化フォーラム」に参加した。偏見・差別の根強いエイズの問題から日本社会の課題を考えるシンポで、児童虐待防止、LGBT(性的少数者)支援、非行少年の更生支援など、さまざまな活動の関係者とともに、声を上げていくことの大切さを強調した。

 運営を手伝ってくれる仲間もできた。ネット上のオンラインサロン、被害者家族のグループ活動、自分を大切にするプログラムなどや、他団体との交流にも力を入れている。

 話題の書「男が痴漢になる理由」(イースト・プレス)で知られる精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳さん(38)との対談もした。斉藤さんが勤める大森榎本クリニック(東京)に通院する性暴力加害者たちの実像を聞き、痴漢などの性暴力が依存症の一種であることを理解する中で、被害者の立場から治療に協力できることがあるかを考えるようになった、という。

 「私自身、被害者だけど、そのトラウマによる苦しみの中で、加害者になったこともあると思う。性の問題をタブー視せず、対話できる社会にしていければ」と語る。(編集委員・安藤明夫)

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