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患者、家族の意思かなえる

(2017年11月14日) 【中日新聞】【朝刊】 この記事を印刷する

愛知医科大 対応や手順 模擬訓練

画像救命救急センターの朝の会議に出席する院内移植コーディネーターの石橋ひろ子さん(手前左から2人目)

 脳死状態になった場合に「臓器提供をしてもいい」と考えている人の意思をかなえるためには、医療機関側の日ごろの備えが欠かせない。愛知医科大病院(愛知県長久手市)は9月、同病院として2年半ぶり3例目の脳死での臓器提供を実施した。2016年から院内移植コーディネーターを置いて体制整備を進めてきた成果で、患者や家族の意思をすくい上げるための鍵が何かを取材した。(稲田雅文)

 「朝のカンファレンスを始めます」。先日、同病院の高度救命救急センターの医師らが、毎朝開いている会議に、看護師長で院内移植コーディネーターの石橋ひろ子さんの姿があった。

 同病院は12年から生体腎移植を実施。その後、脳死の人から提供された腎臓の受け入れも始めた。院内移植コーディネーターは、臓器提供の体制づくりを進め、提供時には家族対応や外部との連絡調整役を務めることが仕事で、石橋さんが16年4月に就いた。

 以前の臓器提供は、特定の医師の個人的な努力で実現していたのが現実で、院内に臓器提供を進めようという機運は高くなかったという。石橋さんは「まずは院内移植コーディネーターがいることを知ってもらおう」と考え、脳死の患者が現れやすい救急の現場に足を運ぶことにした。

 一方で、臓器提供の流れを記したマニュアルを現場の医師の意見を聞きながら改訂。移植に詳しい医師らを招いた講演会や、医師らが手順を確認するシミュレーション(模擬訓練)も実施した。「徐々に医師らの意識が変わっていった」と石橋さんは話す。

 臓器提供は9月12日にあり、低酸素性脳症で入院し脳死となった50代男性から心臓、肝臓、すい臓、腎臓が提供された。今回の経験を踏まえ、現場の医師らに負担がかからないよう簡略化するなど、マニュアルをさらに実践的に改訂する考えだ。

 「患者にどう話せばいいのか、シミュレーションが役立った」と話すのは、9月の提供で患者の家族に、脳死状態になり助からないことと、臓器提供ができることを伝えた武山直志・救命救急センター部長。医師として説明する役と家族役を体験し「“目を覚ますかも”と、誤った希望を持たないよう、はっきり伝えるべきだと感じた」と話す。

 救急医にとって、臓器提供を切り出すことは難しい。手を尽くした患者が助からない状態になったことは「敗北を意味する」。武山部長は「臓器提供は普段の救命の仕事とは別のモチベーションが必要。若い医師だと“まだ助かるんじゃないか”という気持ちがぬぐえず、なかなか切り替えができない」と語る。

 今回の臓器提供に当たっては「本人が以前に臓器提供の希望を家族に話していたとしても、家族から臓器提供を申し出るケースは少ない。こちら側から聞かないと、希望をすくい上げられない」と自ら家族に臓器提供の選択肢を提示した。「組織のトップが率先して動かないと、臓器提供は進んでいかない」と話す。

対象の病院 半数「整わず」

 臓器提供のための体制整備は、対象施設の半数しかできていないのが現状だ。

 臓器移植法の運用指針で、脳死での臓器提供ができる病院は、大学病院や救命救急センターと認定された施設など5つの類型の施設に限定されている。これ以外の病院で脳死状態になった場合、臓器提供のために患者を別の病院に搬送することができないため、提供はできない。

 しかし、厚生労働省の調査では、2015年6月末現在、全国862施設の対象病院のうち、臓器提供の「体制が整っていない」と回答したのは436施設(50.5%)。日本臓器移植ネットワークによると、過去には家族が臓器提供を申し出たのに、体制の不備といった病院側の都合で断念したケースもあるという。

 厚労省は、ネットワークとともに体制整備に取り組む病院に助成をする事業を進めているが、病院側の自発性に委ねている面は否めない。藤田保健衛生大(愛知県豊明市)の朝居朋子准教授は「診療報酬加算などの優遇制度ができれば、病院トップの理解が得られ、体制整備が進むだろう」と指摘する。

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